週末、バルコニー探訪

with Balcony編集部の女性スタッフが、
バルコニーづくりのヒントを求めて
街で見かけた気になるバルコニーやテラスを訪問!
自宅のバルコニーにも
活かせそうなアイデアを発見&ご紹介します。

Vol.04見て、触れて、感じて、
考え、のびのびと!
屋根の上は最高の遊び場

「屋根の上が全部テラス! すごい!」 東京の郊外・立川市にある「ふじようちえん」を初めて知ったとき、目を奪ったのは何よりその園舎でした。ドーナツのように真ん中が開けた楕円形の建物。屋根の上は全体が広々としたデッキテラスになっていて、園児たちがぐるぐると駆け回る。建物の扉は開け放たれ、一体どこまでが室内で、どこからが屋外かわからなくなるほど。

バルコニーを「室内とつながる半戸外空間」と考えるwith Balconyとしては、この園舎を実際に見てみたい!ルーフバルコニーの新しい考え方にも出会えるかも……。そう思い、今回のバルコニー探訪の行き先が決定しました。

屋根全体が、まるで一つの遊具のよう。

「ふじようちえん」は1971年創立。古くからモンテッソーリ教育を取り入れ、自主性を重んじた教育方針で地域から愛されてきました。老朽化を機に園舎を建て替えたのは12年前のこと。園の教育方針と子どもの育つ状況を背景に、アートディレクターの佐藤可士和氏、建築家の手塚貴晴・由比夫妻が一体になり、様々なアイデアの融合によって、この楕円型のユニークな園舎が誕生しました。
ちなみに手塚氏は、屋根の上で食事やシャワーまでできる奇抜な住宅「屋根の家」を建築したことでも知られる建築家。なるほど、屋根の上を特別な場所ではなく「日常的に使える場所」としてデザインしていることにも頷けます。

園内には砂場や遊具もありますが、屋上に上がると、そこはウッドデッキがぐるりと広がるとてもシンプルな空間。でも、まったく寂しい感じはしません。なぜだろう……?
その秘密は、まず屋根を突き抜けるようにニョキッと生えた何本もの樹木。この木々が、地面の温もりを屋上に伝え、大地との一体感を生んでいます。そして、園舎全体が楕円形なので、屋上のどこにいても下の様子が視界に入ります。屋根の上ならではの解放感と、地上との緩やかなつながりが相まって、なんともいえない安心感と居心地の良さ!

屋根の上に遊具を置いていないことには、「遊具を置かない方が、子どもたちは自ら遊びを作り出すから」という園の考え方が反映されています。実際にここでは、遊具がなくてもそこにある木や安全ネットを使い、子どもたちがあっという間に自由な遊びを始めるそう。遊具がないというよりも、この屋上自体が「一つの大きな遊具」のように機能して、子どもが遊ぶための余地に溢れている……そんな印象を受けました。
自宅に広いルーフバルコニーがあると、子どものためについつい遊び道具を置きたくなってしまうかもしれませんが、こうした「何もなさ」を残しておくことも必要なのかもしれません。

アナログな体感が、集中と成長につながる。

園をぐるぐる見学しながら感じたのは、五感を誘う場所だな、ということ。開けた屋上では風が季節の匂いを運び、内と外、部屋と部屋との境界が少ない園内を様々な音が飛び交い、どこにいても元気に遊ぶ園児たちの様子が視界に入ります。雨といからは午前中に降っていた雨水がぽたぽたと零れ、園児はそこに手をかざし、水の感触と戯れる。テラスの床は木材。裸足で踏みしめれば、その温もりと感触が足裏から伝わります。

虫取り床
子ども水

ふじようちえんが大切にしているのは、まさにこうしたアナログな体感。「見て、触れて、感じて、考えて、行動する……子ども時代に大切なことは、“子ども”をしっかりすること。体験は教えられないのです」と、ふじようちえんの加藤園長は語ります。
暑さ、寒さをきちんと体感できるから、そのために窓の開け閉めをしっかり行えるようになる。ノイズが多い場所だからこそ、聞くべき話をしっかり聞く集中力が身に付く。もしかしたら私たちは、少し不便だったり面倒だったりする方が、楽しさや心地よさを感じられるのかもしれません。防音性の高い室内に閉じこもり、一定の室温で一年中過ごすのも快適ですが、それだけでは季節や暮らしへの気づきや学びは得にくいもの。自宅においても、バルコニーの扉を開け放ち、そこで風やノイズを感じながら過ごすことは、リラックスだけじゃなく成長のためにも必要なことなのでしょう。

カーブ壁

真似したくなる、ちょっとした仕掛け

幼稚園と自宅とでは勝手が違いますが、お子様のいる家庭のマンションバルコニーやルーフバルコニーで真似できそうな、小さな仕掛けも発見しました。ふじようちえんは基本的に裸足で過ごしますが、トイレのスリッパを脱ぎ履きする場所に、履物をそろえるためのスリッパ型のマークが描かれています。こうすることで、園児は繰り返し注意されなくても自然に履物を揃えるようになるのだそう。これは、子どもの中に芽生えてくる秩序感を活用しています。例えば自宅でも、バルコニーの床にこんなテンプレートがあれば、バルコニー用の履物をお子様がきちんとそろえる習慣が身に付きそうです。

スリッパ

また、楕円形のふじようちえんでは、職員室も園庭に面したオープン空間。その中でも加藤園長の席は、園全体をぐるりと見渡せる一番前の「特等席」に。 こんな風にバルコニーに面した場所にワークスペースを設ければ、在宅仕事やちょっとした作業をしながら、バルコニーで遊ぶお子様を見守ることもできますね。

カーブ壁

屋根の上を活用し、豊かな知覚と自主的な体験を促すふじようちえん。自宅マンションのルーフバルコニーや屋上の使い方に迷っている方は、ぜひふじようちえんののびのびした空間づかいを参考にしてみてください。

取材協力

学校法人 みんなのひろば ふじようちえん

  • 〒190-0032 東京都立川市上砂町2-7-1
  • Tel : 042-536-4413
  • 月~土 7:00~18:30 日祝休み
  • ※園舎や教育方針についての詳しい内容はこちらをご覧ください。
    『ふじようちえんのひみつ』世界が注目する幼稚園の園長先生がしていること(小学館)
    加藤積一(著)
  • https://fujikids.jp/