安来市の避難所に防災貯留型仮設トイレシステムを設置
トイレブースを自転車置き場として利用

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下水道総合地震対策事業や社会資本整備総合交付金といった国の後押しもあり、全国各地で災害用仮設トイレ
(マンホールトイレ)の建設が進められている。そのような中、島根県安来市において積水化学の「防災貯留
型仮設トイレシステム」が採用され、避難所での安全快適なトイレ環境の確保に工夫を凝らした新しいタイプ
の災害用仮設トイレが設置されたと聞き、安来市上下水道部下水道課の皆様からお話をうかがった。

災害に強い貯留型、液状化対策にリブパイプ

今回、安来市立第一中学校(飯島町)に設置された災害用仮設トイレ建設までの経緯について下水道課長の高家 徹さんよりお話ください。

高家さん  避難所の一つになっている第一中学校で改築工事が実施され、災害用トイレの設置スペースが確保できるようになったところから社会資本整備総合交付金の対象となった今回の災害用トイレ設置計画がスタートしたもので、その頃、神戸で下水道展(2012 年)があり、その会場で積水化学の防災貯留型仮設トイレシステムと出会ったことが、その後の方向を決定づける転機となりました。

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幾つもの災害用仮設トイレ方式がある中で、貯留型であり、かつ下水道本管接続方式をとっている積水化学の「防災貯留型仮設トイレシステム」をご採用いただいたということですね。

高家さん  そうです。ただの下水道本管直結型だと地震災害時に下流側の下水道管路が破損し災害用トイレが使えなくなる恐れがある。その点、仮設トイレ直下の排水管を貯留槽としている積水化学の防災貯留型仮設トイレシステムなら下流側の下水道管路が破損しても貯留槽があることによってトイレ使用が可能であり、またその貯留槽に水を溜めておくことで臭気の発生を抑え、継続使用時の管内洗浄も容易になりますからね。
また、地震によって地下埋設部が浮上破損しては肝心の時、トイレが使えなくなる恐れがありますので、液状化対策として積水化学のシステムのうちリブパイプによる砕石基礎施工を選択することにしました。それで災害用トイレの骨格ともいうべき地下埋設部分は決まりましたが、災害時のトイレ利用を考えると、地上部分のトイレブースもゆるがせにできない。
災害時といえども可能な限り安全快適なトイレ環境を提供するためには、風などの天候にも左右されず、安全快適に利用していただけるトイレブースやトイレ本体を採用したい。
ただ、安全快適なトイレブースとなると、格納場所の確保に難しさがともないます。

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積極発想から生まれた自転車置場兼災害用トイレブース

テント式であれば小さく畳めても安全快適なブースであればあるほど、その収納スペースが広く大きくなるというわけですね。
高家さん  そこで鉄蓋やトイレ本体など地上部分のメーカーである日之出水道機器に「仮設トイレ設置スペースそのものを格納場所とし、かつ自転車置場として活用する方法はないか」と相談させてもらいました。
その積極的な発想が、積水樹脂のアルミ樹脂複合板からなる「自転車置場兼災害用トイレブース」の開発につながり、平常時は自転車置場でありながら同時にトイレブースやトイレ本体の格納場所という画期的な安来市立第一中学校の災害用仮設トイレにつながったということですね。その結果、仮設トイレシステムを積水化学、鉄蓋とトイレ本体を日之出水道、上屋を積水樹脂が担当することに。

高家さん  はい。計画の初期段階からそれぞれの分野で力を尽くし、第一中学校災害用仮設トイレの最善化に努めてくださった3社の製品・システムを取り入れることにしました。

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ここで下水道課主幹の平野 敦史さんにお伺いしたいのですが、地下埋設部分(防災貯留型仮設トイレシステム)はどのような構成になっているのでしょうか。

平野さん 上流側に地下貯水槽を設け、その貯水槽の下流側に給水マンホールと口径450mm の下水道用リブ付硬質塩化ビニル管「エスロンプラスチックリブパイプ」からなる仮設トイレ部(長さ14m の排水管)を設けています。
リブパイプの排水管には口径200mm の硬質塩化ビニル管からなる立上り管6本があり、災害時には立上り管の内蓋を外してトイレ本体を設置します。その仮設トイレ部の下流側にはFRPM製マンホール内に設けた貯留弁があり、リブパイプの内部には平常時でも水を溜めています。
そして万一の災害時にはトイレの使用状態に合わせて貯留弁を解放。リブパイプの内部に溜った汚物をパイプ内に溜めておいた水とともに一挙に放出し、排水管を経て公共下水道に送り込むシステムになっています。

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その仮設トイレの地上部が「自転車置場兼災害用トイレブース」で、災害時には折り畳んで間仕切り壁状にしておいたトイレブースを開き、鉄蓋を外してトイレ本体を設置するわけですね。今回のトイレは6基でいいですか。
平野さん はい。第一中学校では障害者用を1基を含めて6基のトイレ本体が1m 間隔で設置できるようになっており、それらのトイレ本体は「自転車置場兼災害用トイレブース」の一部である格納スペースに収納する仕組みになっています。

安全快適な災害トイレを目指して3社協業

今回の災害用トイレにつきましては、先程の高家課長さんのお話にありましたように積水化学、日之出水道機器、積水樹脂の3社協業が大きな役割を果たしたことと思います。そこで安来市立第一中学校の災害用トイレを担当なさった3社の皆様からこの現場に特化したかたちでのお話を簡単にお願いします。まずは積水化学から。

積水化学から 神戸での下水道展のあと、独自に営業活動を展開させていただくとともに災害用仮設トイレで協業関係にあった日之出水道さんと情報を交換。それぞれの立場で折衝を進めさせていただいた結果、仮設トイレ部に水を溜めていることによって臭気を抑制することができ、また溜めていた水を一挙に解放することで仮設トイレ部の洗浄が容易になるなどの貯留型の利点を評価していただき、積水化学の「防災貯留型仮設トイレシステム」をご採用いただくことができました。
また、お話にもありましたように仮設トイレ部の排水管に砕石基礎施工により液状化現象による浮上防止に役立つリブパイプをご採用いただいたことも、地震災害に配慮をこらされたこの現場の特色の一つになっています。

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日之出水道機器さんからもひと言。

日之出水道機器さんから 災害用トイレの蓋として専用の親子蓋(600mmと270mm)を開発。貯留弁の操作性を高める工夫をさせていただくとともに、鉄蓋の表面や災害トイレブースに一目で災害用トイレとわかる案内板を取り付けさせていただきました。
また、「中学校なので仮設トイレスペースを駐輪場などに活用した方がいい」とのご提案をいただき、他の分野で協業関係にあった積水樹脂さんの協力を要請しました。

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では「自転車置場兼災害用トイレブース」を開発なさった積水樹脂さんから。
積水樹脂さんから 自転車置場の販売は従来から行っていたのですが、今回は災害対策としての新しい展開の機会を頂きました。平常時のみならず災害時でも活用できる自転車置場の開発は、平常時は自転車置場の背面壁でありながら災害時にはトイレブースとして活用できる構造を、軽量なアルミ樹脂複合板を活用して『簡単に組立てる事ができる』という事をコンセプトに行いました。
小さなことかもしれませんが、トイレの扉が勝手に閉まるシンプルな装置を取り付けさせていただいたのもその中からの発想です。
先程、砕石基礎の話がありましたが、これを含めリブパイプの施工を担当なさった渡部工務店作業所長の原田 忠さんのお話を。

原田さん 液状化対策に優れたリブパイプで仮設トイレ部を施工することになり、はじめてリブパイプの砕石基礎施工を行うことになりました。ただ、はじめてといっても下水道工事でのことですから戸惑いも難しさもなく、貯水槽から下水道本管への接続まで仕上げることができました。
また災害時の使い勝手を考慮し、避難場所となる学校の車止めなどの鍵を一つのものに統一させていただきました。

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貯留槽の水で臭気抑制と洗浄

災害用仮設トイレは万一の場合に備えるもの。使わずに済めばそれに越したことはないのに決まっていますが、もし災害用仮設トイレを使わなければならない事態となった場合、どのようにされるのでしょうか。平野主幹さんからお話いただけますでしょうか。
平野さん 積水化学の防災貯留型仮設トイレシステムは、平常時から排水管(仮設トイレ設置部)に水を溜めておく仕組みになっていますので、まずは自転車置場として使っている自転車置場兼災害用トイレブースを組み立て、立上り管の内蓋を外してトイレブースの一部に収納してあるトイレ本体を設置した段階で雨風にも強く、人影も映らない安全快適なトイレの使用が可能になります。
次の段階として貯留槽に溜った汚物を下水道本管に排出する場合、仮設トイレ部の下流側にあるFRP製マンホールの親子蓋を開き、貯留弁を引上げます。
これで貯留槽の汚物を水とともに一挙に洗い流したあと、貯留弁を閉め、上流側の給水用マンホールの内部にある給水弁を開いて再び貯留槽に水を溜め、トイレの使用を再開することになります。
貯留槽に溜める水は最上流部の貯水槽のものですね。その貯留槽の水で何回くらい使用できるのですか。
平野さん 第一中学校の場合、貯水槽の水だけで5?6回使用できます。また、この貯水槽の水は河川から補給することで繰り返し使用することができます。
最後に高家課長さんからもひと言。
高家さん  第一中学校の災害用トイレの運用は学校側の担当ですが、下水道課としても維持管理や災害訓練に協力し、力を合わせて万一の地震災害に備えてゆきたいと思っています。

ありがとうございました。私どもも、施工業者様をはじめお客様に喜んでいただける製品・工法の開発に精進してまいります。


今回ご紹介させていただいた製品概要

自然流下式仮設水洗トイレ(下水道直結型)

防災貯留型仮設トイレシステム(下水道直結型)

20150629中央市記事用写真
中央市記事用写真
20150629中央市記事用写真
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