山梨県中央市の小学校に『防災貯留型仮設トイレシステム』を設置

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地域防災計画の1つとして二次避難施設となる玉穂南小学校に防災貯留型仮設トイレを設置

甲府盆地の中央部に位置し、一級河川笛吹川や釜無川などが流れる山梨県中央市。
市が進める地域防災計画の1 つとして、災害時に二次避難施設となる玉穂南小学校に積水化学の防災貯留型
仮設トイレを設置しましたのでご紹介いたします。


工事のあらまし

校内に6基の仮設トイレに対応できる仮設トイレ専用埋設管路と貯留弁付マンホールを設置。下水道に直結した仮設トイレ用管路の蓋を開け、その上に仮設トイレをのせて完成。有事の際にも誰でもすぐに仮設トイレが設置できます。下水道直結型のため、汲み取りの必要もなく、有事の混乱の際にも最小限の管理でご使用いただけます。また、防災訓練とお披露目会を兼ねて地域住民の方々が実際に使用する場合を想定して設置訓練を行いました。
今回はこの仮設トイレシステム設置の責任者である中央市建設部下水道課の遠藤主査にお話を伺いました。

20150629中央市記事用写真

下水道直結型仮設トイレの概要

  • ・地下埋設部の管路は積水化学が担当。
  • ・地上に設置する仮設トイレと備蓄倉庫は中央市役所 遠藤主査とコンサルタント会社にて検討しました。
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はじめに建設部下水道課の仕事についてお聞かせください。

下水道についての「何でも屋」です。小さい市ですから企画・立案、予算と何でもやります。「詰まり」などのト
ラブルやその他困ったことがあれば現場に駆けつけますし、ポンプ場の定期点検なども行います。

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下水道の分野としては、平坦部の公共下水道、山間部の農業集落排水、コミュニティプラントの集合処理があり
ます。公共下水、農業集落排水は昭和62年から整備を着手し始めましたのでまだ30 年は経っていませんが、コミュニティプラント(市に移管予定)は昭和51 年頃に整備しており、φ400、500 のヒューム管が多く使われています。これらの老朽化はやはり心配で、頭を悩ませているところです。やはり小さな自治体市ですから、カメラ調査も予算上なかなか進まない状況です。2006 年の合併で現在の中央市となり、課長を含む7 人で業務を切り盛りしていますが、他の自治体と同様に今後人員も減っていく方向ではないかと思っています。「国」や「市民」が求めるサービスと我が市役所の人員、予算をどのように調整していくのか。これが市の課題ですね。

まずは二次避難所への地震対策設備に万全期す

現在、中央市で災害対策として必要とされる、または整備を進めている設備は何ですか?
地域防災計画として、「仮設トイレ」「貯水槽」「備蓄倉庫」の設置を進めており、まず市内の小中学校8校から整備していきたいと考えています。今回はその手始めということですね。ゆくゆくは公民館などすべての防災拠点に設置していきたいですが、地震だけでなく水害対策もしていかなくてはなりません。しかし予算の問題もありますから、まずは地震対策に照準を絞って整備を進めています。
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有事の際の避難場所は、一次避難地と二次避難所に分類されます。一次避難地とは広場や公民館、神社など災害時にまず市民が集まる場所で、集まるスペースだけを提供する場所のことです。対して二次避難所とは学校や体育館などで、万一長期避難の必要が生じた場合に市民が寝泊まりする場所のことをいいます。まずはこの二次避難所の整備を万全にし、地震に備えたいですね。

市民の方々の地震についての危機管理意識はいかがでしょう

富士山に近いので噴火の心配ということをお聞きになりたいのかもしれませんが、それよりも地震についてはむしろ液状化の心配をされている方が多いと思います。東日本大震災以降は災害マップが出され、この辺りは液状化の地域ということになっています。笛吹川と釜無川に挟まれた地域であり、地盤が弱いというのは大きな懸念です。また水害や洪水などの局地的な災害に対しての心配もあります。
東日本大震災では震度5 弱を経験しましたが、幸い市内に大きな被害はありませんでした。水管橋などで心配だった箇所もいくつかありましたが、これも幸い無事でした。

決め手は「市民の手で」設置・管理できる仮設トイレ

今回、下水道直結型の仮設トイレシステムを採用された経緯をお教えください。

小さな市ですので市全体に及ぶような大規模災害には対応しきれないだろうというのが正直なところです。予算と人員が大規模災害に対しては全く足りていません。そのような状況の中で今やるべき対策は、現実的に一集落規模の局地的災害を受けた場合の対策と考えています。

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市の危機管理課は現在、6人しかいません。万一の時には情報収集と各部門との調整の役割を担うため、現場に行くことができないという可能性も大いにあります。そのようなときには自治会の方々に協力いただかなくてはなりません。つまり、私たちが整備する仮設トイレは、専門の業者ではなく一般市民が設置・管理できるものでなくてはならないのです。
マンホールトイレは大掛かりになってしまいますし、災害時、電気もなく、交通も遮断された状況で避難日数を3~7 日に設定した場合には、汲み取り作業など市民の方々がやるには現実的ではない。幸い我が市には耐震管が埋設されていますので、それを利用するのが一番効率的で、災害時の市民の手間も最小限に抑えられるだろうと考えました。

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ほかの仮設トイレとの比較などはされたのでしょうか?

積水化学さんに提案していただいた下水道直結型の仮設トイレ専用埋設管路は管理面の手間などを考えた場合、ベストだと思います。地下埋設部の管路を決めたら、次の問題は地上に設置する仮設トイレです。

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色々なメーカーのものを調べましたが、シャッターがついていたり、必要以上に大掛かりすぎました。多大なコストを掛けて学校に設置しても、実は学校にとってはメリットが全くありません。普段のことを考えたら校内に使わないものが増えて邪魔になってしまう上、駐車スペースまでもが削られてしまう。もしかしたら永久に使わないかもしれない。まさに宝の持ち腐れです。
10 年に1 回のメンテナンスでいいとはいっても、市民がどうやってメンテナンスをするのか? 逆に10 年に1 回ではメンテナンスの仕方も忘れてしまいます。業者ではなく一般の方々ですから、長期の間隔を空けたメンテナンスは難しいのです。
そもそも、地上に設置する「仮設トイレ」メーカーの製品はあくまで「物置」などがメインの商品が既にあって、それを使って仮設トイレとして改造したものです。仮設トイレのために開発したものではなく、言葉は悪いのですが、ついでにトイレがくっついているという印象がありました。

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とはいえ既成のモノが駄目なら、自分でなんとかするしかない。もっと仮設トイレとしての適した在り方を求め、市民の皆様のご要望や学校側の希望などをお聞きして、そのことを「仮設トイレメーカー」に相談しても、既成のモノでは満足できるものがやっぱりない。だから私たちが1つひとつ注文して設計を詰めていく必要がある。そうすると必然的にコスト・労力ともに膨大なものになってしまいます。
不特定多数の方々がお使いになるものだけに、私のような下水道の一担当者だけの意見で進めては一部の方にしか活用できない施設ができてしまいますから。そういったことを避けるため、自治会や学校、一般の方や現場に係る方の様々なニーズを逐一お聞きし、それらをまとめてコンサルタントさんと設計に落としこむことに注力しました。このように膨大な労力をかけても、詰めていった特注仮設トイレはコストが増加し、その結果どうなってしまうかというと、結局実現しなくなってしまう。私としてもそのような結末は避けたい。実現可能なモノを詰めていく作業は非常に困難でした。私たちは開発者ではありませんから。こうした詰めていく作業は中央市のような規模の市ではハードルが高過ぎると感じましたしね。
仮設とはいえ、いかなるトイレも使い勝手が大切で、トイレの在るべきカタチ(使い心地など)を下水道のコンサルタントさんと相談しながら進めるのは本来おかしな話のような気もします。その辺の進め方の改善が必要かもしれません。

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今後、仮設トイレの課題としてどのようなことが挙げられますか?

私は「いつも使っていないもの」をいざというときに本当に使えるのか、疑問に思っています。使える、というのも「故障などがないか」というハード的な意味と「使い方や皆で使うときのルールを市民が理解しているか?」「どのようにメンテナンスをするのか?」というソフト的な意味がありますが。つまり簡単に設置できる仮設トイレだとしても、「使い方」「ルール」も含め、周知していく必要があると思っています。

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またこれは仮設トイレ自体の課題ではありませんが、学校にはまだ和式トイレが多く、子供たちが使えないという意見も聞きますし、お年寄りの方も洋式トイレが利用しやすい。だから地域のイベント等にも活用していけるような仮設トイレがあったらいいのに、と思います。イベントに参加されたお年寄りにも安心して利用いただけるものです。日々の活動の中でこの施設に使って頂く。そうすれば周知が進むと思います。

平時にも有事にも活躍するパッケージ製品望む

メーカーとしてお聞きします。どのような仮設トイレシステムをお求めになっていますか?ご提案がありましたらお教えください。

今回の地上設置部の仮設トイレは私たち中央市とコンサルタントが検討を重ね、備蓄倉庫を兼ねたものを作り、また太陽光発電も設置したものになりました。

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地域防災計画では、仮設トイレ、貯水槽、防災備蓄倉庫が3点セットになっています。これがまとまった下水道直結型の仮設トイレがあればいいと思います。普段は防災備蓄倉庫、災害時には倉庫内に仕切りを作り、トイレにもなる。しかも先に述べたような『ついで』のトイレではなく、あくまでトイレとしての使い勝手が必要十分。そんなものがワンパッケージであったらいいですね。トイレットペーパーの保管はもちろん、運動会などのイベントでも使えるよう様々な備品を入れて倉庫も兼ねていると便利なんです。たまに市民が使用するようなものなら、メンテナンスの仕方も皆さまで覚えていき、トイレットペーパーがない、足りないものがあるなどの情報もイベントの際に確認できますから。それこそが市民もできるメンテナンスだと思います。イベントで使えれば、学校にとっても邪魔なものにならなく、メリットとなる。

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現状、どのメーカーもそういったものは作ってないと思います。こうしたコンセプトでパッケージ製品を作っていただけたらと思います。もちろん、簡易な手順でトイレになるという前提が必須ですけどね。何十キロもあるような組み立て式の設備を市民の方が有事の際に組み立てることはもちろんできませんし、業者しか扱えない専門の工具が必要なものもダメです。現実には、簡易的なテント式と、備蓄倉庫も兼ねたタイプの二極化になっていくと思いますが、現状では中途半端で使い勝手が悪すぎます。現実のニーズにあっていないような気がしますね。
以前に隣の市の塩山南小学校に設置された仮設トイレを参考までに見学させてもらったことがあり、当時は自分がもし担当するのであれば「こういうものを設置したい」という理想像がありました。今回は苦労して、何とかそれに近づけましたが、全ての自治体でこのような苦労は到底、効率的とは言えません。

—仮設トイレの分野はまだ改良の必要があるのでしょうか?

あると感じます。選挙の備品などは、すごく考えられていますよ。投票箱は折りたたみができる上に軽く、女性でも3つ4 つは一度に運べるほどです。さらに説明書がなくてもだれでも簡単に組み立て可能で、保管場所も取らない。そのうえ丈夫! かなり考えられて、かつシンプルに作られています。考えられたシンプルさがそこにはあり、さらにパッケージ化されています。

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使うときには何が大事か。どうすればいいのか。仮設トイレはまだまだ、そのコンセプトが確立しきれてないような気がします。少なくとも、我々のような小さな自治体では何でも買えるというわけにもいかず、知恵が必要になりますからね。日本全国このような自治体は多いと思いますので。ぜひ積水化学さんも仮設トイレにおけるコンセプトから更に開発を進めて、地上部、地下埋設部を含めたパッケージを考えてほしいと思います。

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最後に、「これだけは言っておきたい!」ということがありましたらお話しください。

プロ仕様ではなく、誰でもわかりやすいものがほしい。説明書や看板がなかったとしても、どうすればいいのかわかるようなものです。自治体が小さくなっていけば、地域の方々に協力いただかなくてはなりません。それを前提とした製品を作っていただけたらうれしいです。

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それから、自治体は地域のリーダーを育てていかなければなりません。そのリーダーを中心として地域の皆様が使えるようなもの、防災マニュアル、仮設トイレ管理をできるだけシンプルにして、祭りや運動会などのイベントで普段から定期的に使えるようなもの、使いたくなるものをお願いします。

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本日はありがとうございました。自治体の皆さまにより近い目線で製品開発を進めてまいりたいと思います。今度ともよろしくお願いいたします。


今回ご紹介させていただいた製品概要

防災貯留型仮設トイレシステム(下水道直結型)

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