ナベヅル飛来地・山口県周南市での酒米の生産支援システム
実証実験に積水化学の「水(み)まわりくん」が活躍
印刷版PDF(会員限定)本州で唯一のナベヅル飛来地として知られる山口県周南市。その貴重な生息環境を守るべく圃場整備に取り組んでおられる「農事組合法人 ファームつるの里」が経営する圃場の一画で行われている酒米生産支援システム確立に向けた実証実験(2016年度から3年間)で、積水化学の水田水管理省力化システム(多機能型自動給水機「水(み)まわりくん」&多機能型給水栓「エアダスバルブ」)がICTを活用した生産支援システム確立に成果をあげるとともに、水管理の省力化や圃場の大規模化に大きな効果があることを実証しました。
ナベヅル飛来地である山口県周南市八代地区でも農家の高齢化と後継者難が避けられず、圃場の荒廃が国の特別天然記念物でもあるナベヅルの貴重な生息環境を損なう恐れが生じていた。
その危機を打破すべく2006年に設立されたのが「農事組合法人 ファームつるの里」(従業員7名、経営面積約40ha)である。このファームつるの里が経営する圃場のうち、野鳥観測所の真ん前に位置する6枚の圃場(約2.3ha)で、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター(農研機構生研センター)の「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の一つである「次世代酒米コンソーシアム」*1の山口県グループのテーマである「集落営農法人を対象としたICTを活用した酒米の生産支援システムの確立と日本酒の生産・輸出拡大」の実証実験が2016年度から3年間にわたって実施されることになった。
この山口県、山口大学、西日本農業研究センターなどからなるグループの実証実験に積水化学が参加。農林水産省農村振興局所管の官民連携新技術研究開発事業として東京大学大学院などとともに開発製品化した多機能型自動給水機「水(み)まわりくん」と多機能型給水栓「エアダスバルブ」の組み合わせによる水田水管理システムによって、酒米栽培における水管理の省力化や高品質化、収量の増大を目指すことになったのである。
*1「次世代酒米コンソーシアム」……兵庫県立農林水産技術総合センターを研究代表機関とする山田錦レベルの優れた適性を有する酒米新品種と革新的栽培・醸造技術の活用による日本酒輸出倍増戦略。兵庫県、栃木県、石川県、京都府、山口県、西日本農業研究センター、酒類総合研究所の7グループで構成されている。
実証実験の2年度目が過ぎたところで周南市八代を訪ね、ファームつるの里代表理事の荷本 明さんならびに水稲栽培責任者である事務局次長の仁多 新太郎さんから「水(み)まわりくん」による酒米栽培と導入の効果についてお話を伺った。
- ファームつるの里の設立は2006年とお聞きしましたが、つるの里設立とナベヅル飛来地としての自然環境保護の間には密接な関係があるのですか?
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荷本代表理事 八代盆地(海抜350m)のこの一帯では明治元年に住民がナベヅルの捕獲禁止を申し合わせるなど、昔から大切に見守ってきましたが、戦前350羽を数えたナベヅルの飛来数も徐々に減少傾向を辿り、昭和50年頃になると100羽、近年では10羽程度しか姿を見せないようになっています。
八代地区住民の減少や高齢化による圃場の荒廃がこの飛来数減の原因の一つと考えられることから、2005年の兵庫県立コウノトリの郷公園視察を経て、農事組合法人 ファームつるの里を設立することになりました。
- 高齢化などで荒廃する田畑を受け入れることで、ナベヅルが飛来する貴重な自然環境を守って来られたということですね。
- 荷本代表理事 つるの里設立当時の経営面積は9haほどでしたが、今では約40haの圃場を経営するまでになりました。
また、こうした活動に賛同していただける若い方々が他県からも入って来られ、農業に従事していただけるようになりましたが、ファームつるの里の7名の従業員では現在の40ha、260枚の圃場を経営するのが精一杯で、新たな圃場を受け入れることが難しい状況になっています。
- 水(み)まわりくんの採用が水管理の負担軽減にどのようにつながるか、2年間の実証実験を踏まえてお話しいただければと思います。
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仁多事務局次長 今回の実証実験は、野鳥観測所の前の圃場6枚(約2.3ha)へ「水(み)まわりくん」と「エアダスバルブ」を設置し、ICT(情報・通信技術)を活用した酒米・山田錦の生育診断システムの確立を目指すものです。
水(み)まわりくんの電源はソーラーパネルと電池、水位センサーが6箇所、それにゲートウェイを1箇所設置した構成となっています。セットで使用するエアダスバルブは単体での設置・使用の際でも信頼性が高く、ゴミ詰り等の不具合が起きることが無く、安心して水管理を任せる事ができました。更に、酒米の高温障害を防止するため夜間かんがいを行いましたが、夜間に圃場に行ってバルブを操作する必要がないので、大幅な省力化ができました。
また、当地でいうなら4月上旬の水入れに始まり、5月中旬の田植え(通常、山田錦の田植えは6月頃に行われるが、八代盆地の特性で秋の日照時間が短いため、早めの田植えになるとのこと)のあとも稲穂の生育に合わせて行う浅水や深水といった水管理についても同様に手間を省くことができます。今までなら都度圃場まで行って、圃場の状態を見て、その場でバルブの開閉を行わなければならなかったのが、時間のある時にスマホで開閉時間等の設定しておけば良いのですからね。
- その水管理の省力化が圃場の大規模化を可能にし、また新規受け入れの限界突破につながるのではありませんか?
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仁多事務局次長 今回の実験で水(み)まわりくんの導入が大幅な省力化につながり、現状の人員でも更に大規模な経営につなげる事が可能だと考えます。ただ、その半面、水管理システムを拡大適用するための初期投資が必要で、導入のハードルになります。
このファームつるの里では整備が進んだ一等地エリアの圃場にパイプラインが設けられていますが、ないところではパイプラインの設置から始めなければなりませんし、自動給水栓のコストもかかりますから。荷本代表理事 現在、ファームに集ってもらっている若者に担ってもらっている一枚当たりの面積が広くて形の良い圃場が約150枚集まっている一等地エリア全体に「水(み)まわりくん」を入れることが出来れば、もっと大規模な経営が出来ると思うのですが…。
自動給水栓導入のための補助金等の制度拡充に期待したいですね。
- ここで「次世代酒米コンソーシアム」の基幹を担う酒米栽培の支援システム確立と「水(み)まわりくん」についてお話を伺いたいのですが、2年度目まで終えての評価はいかがですか?
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仁多事務局次長 山田錦の八代地区における栽培暦に従った間断かんがいや高温障害対策としての夜間かんがいにより、収量の増加、また酒米としての醸造適性向上を実現することができました。
- それは数字として実証できたということですか?
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仁多事務局次長 八代地区での2015年度の山田錦の栽培実績(等級3等、収量350kg/10a、販売額48,000円)を基に目標値(等級1等以上、収量20%UP、販売額51,000円)を設けているのですが、1年度目に17%UPでわずかに及ばなかった収量も2年度目には37%UPを達成したことで、3つの目標値全てをクリアすることができました。
貴重なご意見をありがとうございました。皆様方のご信頼にお応えできるよう尚一層の製品開発、サービス向上に努めてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
なお、積水化学の「水(み)まわりくん」には、ファームつるの里の実証実験に導入されたICT対応の遠隔操作型(水位センサーはオプション)のほか、リモコン型、タイマー型、合わせて3つのタイプがございます。
今回ご紹介させていただいた製品
水田水管理省力化システム 多機能型自動給水栓
水田水管理省力化システム 多機能型自動給水機 水(み)まわりくん
製品解説
エアダスバルブの上部に設置することで給水操作を自動化し、水管理を大幅に省力化。タイマー型、リモコン型、遠隔操作型の3つのラインアップで多様なニーズに対応。給水栓の開度、給水時間、カレンダー設定等の細かな水管理が可能。育成状況に応じて田面水位や地下水位を遠隔制御することで、農作業の負担を軽減し、大規模化による収量UPや高品質生産が図れます。
特長
- 1.給水周期設定で給水開始時間をコントロール
- 2.給水時間設定で給水時間をコントロール
- 3.開度設定で給水量をコントロール
- 4.動力はソーラー発電+バッテリー
- 5.水位センサーで水位管理(オプション)
- ●水管理の合理化・省力化により農地集積を加速し、経営の大規模化が図れます。
- ●冷たい水を夜間に灌水し、高温障害による米の品質低下を防止します。
- ●営農暦に準拠した間断かんがい等を確実に実施でき、米の品質向上が図れます。
多機能型給水栓 エアダスバルブ
特長
- 1.バルブの開閉が容易
- 2.ゴミが詰まりにくく、詰まった場合も取り出しが容易
- 3.排気・吸気作用があります
- 4.分岐口を活用し、水の多目的利用が可能
- 5.水管理の合理化・省力化により、経営の大規模化が図れます
「水まわりくん」及び「水まわりゲートくん」に付随するシステム(ソフトウェア)の利用契約は、農林水産省による補助事業等の要件とされている『農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン』(令和2年3月12日農林水産省策定)に準拠していることを確認しております。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
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