Introduction
1957年開業の先々代「須磨水族館」、1987年に全面的に建て替えられた「須磨海浜水族園」と、長きにわたって神戸のみならず関西圏の方々に「スマスイ」の名で親しまれてきた水族館が、「神戸須磨シーワールド」として新たに生まれ変わり、2024年6月1日にグランドオープンしました。
西日本唯一となるシャチパフォーマンスのほか、魚や動物の生態を楽しみながら学び、生態系や環境を考えるきっかけを提供します。
多くの水槽を有する水族館には大規模な配管設備が不可欠。積水化学のUVストロング、エスロハイパーAW、エスロンパイプが採用され、魚や動物たちの大切な命を守る一翼を担っています。
この度、設計を担当された竹中工務店の坂本様と、空調・飼育設備を担当された新菱冷熱工業の北山様に、採用の経緯やご感想を伺いました。
インタビュー : 2024年3⽉15日
Guest
株式会社竹中工務店 設計部 坂本 馨 様
新菱冷熱工業株式会社 名古屋支社 北山 敬一 様
Interview
エスロンパイプは延べ20km!
- ———最初に、坂本様と北山様のご所属、今回の工事でのご担当を教えてください
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坂本様 : 竹中工務店の坂本です。当社は、須磨海浜水族園・須磨海浜公園再整備事業を実施する事業JVの一員として、神戸須磨シーワールドの設計・施工を担っており、私は飼育設備の設計を担当しています。
北山様 : 新菱冷熱工業の北山です。空調・衛生をはじめとする各種設備の設計・施工を請け負う当社は水族館に不可欠な飼育設備についても日本各地で実績があります。今回の神戸須磨シーワールドの工事では空調・飼育設備を担当しました。
- ———お二人とも、本日はよろしくお願いいたします。それでは、まず今回の工事概要を教えてください
- 坂本様 : 2019年に、株式会社サンケイビル様ほか6社で構成された事業JVの事業提案が神戸市に認定され設計業務に着手、2022年1月に水族館及び園地の建設工事に着工しました。旧水族園の解体工事や、他社による宿泊施設、にぎわい施設、駐車場などの整備が同時並行で行われ、3棟からなる水族館は2023年8月以降順次完成し、開業準備を経て、2024年6月に水族館とホテルが開業いたしました。
- ———神戸須磨シーワールドでは西日本で唯一シャチが見られるということで、大きく話題になっております。お二方はこれまでにも水族館の工事に携われた経験はありましたか
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坂本様 : 私は今回の神戸須磨シーワールドで水族館の設計は3件目です。実は、積水化学の営業担当である津田さんには、10年ほど前に大阪府の水族館を担当した時にもお世話になっています。
北山様 : 私は仙台にある水族館の工事に携わったことがあり、今回で水族館は2回目ですね。
- ———水族館は一般的な建築物と比べるとどのように設計プロセスが異なるのでしょうか
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坂本様 : 展示のコンセプト、飼育展示する生物の種類、生物飼育のスペックなどは、基本的に水族館の運営事業者様が決定され、我々建設会社がそれを建築計画に落とし込んでいきます。骨格となる水槽の配置がまずあって、それをどう観覧者に見せるかによって観覧動線が決まります。これがいわゆる展示計画という部分で、運営事業者様にイニシアティブがあります。
それをベースに当社にて法適合は問題無いか、設備計画がどうあるべきか、構造合理性は問題無いかと言った様々な事項を検討します。それを展示計画にフィードバックし、経済合理性を確認しながら設計が進みます。このように必ずしも建設会社主導で設計が進まないというところに特徴があります。水槽の配置によっては観覧スペースの天井に飼育設備配管が敷設されることも少なくはなく、この場合は配管表面の結露水にも留意が必要となります。水槽内部は擬岩造形などによって自然環境が忠実に再現されていますが、そこに配管等が露出すると展示効果を大きく損なってしまうので、目立たないようにする工夫も必要になります。
つまり、裏方であるバックスペースと観覧側スペースとの境界が曖昧であり、且つ、それを極力ぼかす必要があるところに難しさがあります。
- ———施工面ではどうでしょうか
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北山様 : 施工における違いとしては、水族館の設備配管と通常の建物配管では使われる管種が大きく異なります。水族館で展示されている水槽では海水が使用されているので、鉄管では錆びてしまいます。もちろん淡水の飼育環境もありますが、腐食しない塩ビ管が断然多いですね。しかも一般的に使わないような大口径が多くなります。
また出来上がった後には、水槽で暮らす生物にとって飼育設備はまさしく生命線です。万が一不具合があった場合には生物のコンディションに直結します。24時間止まることなく機能を維持し続けること。生物たちの命を託されていることが一番特殊な点ですね。
- ———今回はほとんど塩ビ管が使用されたのでしょうか
- 北山様 : そうですね、飼育設備配管に関しては塩ビ管がほとんどです。海水のところでは確実に塩ビ管です。ごく部分的に鉄管にライニングを施した管も使用していますが、やはり塩ビ管に委ねるところがすごく大きいです。
紫外線対策にUVストロング!
- ———UVストロングを採用されたのは、どういったところでしょうか
- 坂本様 : 塩ビ配管を屋外で使用する場合の避けられない課題として紫外線劣化があり、塗装や被覆による対策が必要になります。
塗装は配管敷設後に行われるのが基本ですので、仮設費用なども考慮するとUVストロングの採用によってコストメリットが得られるのではと考え、採用検討を新菱冷熱さんにお願いしました。
西日本最大級の規模となる水族館ということもあり、250Aや300Aといった大口径が多くある中で、ラインアップが200Aまでという点が残念ではありましたが。
- ———使用箇所は排水用の管ですか
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北山様 : UVストロングに関しては排水用がメインです。エスロンパイプVPは水槽やろ過・循環などで使用しました。ただ口径が大きい場合や、保温をする場合はUVストロングの採用には至りませんでした。
屋外での紫外線劣化に強いUVストロングは塗装費用が不要になるのでコストが縮減できました。塗装が無いことで工期短縮も出来ているのでたくさん使えれば使えるほどメリットはあったと感じています。
- ———エスロンパイプVPはどれくらい使用していただいたのですか
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北山様 : こまかな小口径まで合わせると使用したパイプは5000本を超え、20km超です。
その中でも大口径が大半を占めており、インチメーター※ですと9万インチメーターを超えております。
※インチメーター = 口径(インチ表示) × 長さ(m)
- ———それほどの配管を全て設計図にしていくのですね
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坂本様 : 当社が設計図でサイズ選定と基本ルートを整理し、新菱冷熱さんがそれを基に施工図に落とし込みます。
建築も設備も全てBIMを活用したプロジェクトで、小口径配管も全てモデリングしたので、運営事業者さんともモデル上で配管ルートを視覚的に共有し、バルブ類の操作性やメンテ性などを施工前に確認しながら進めました。北山様 : 施工するにあたって口径を少しでも小さくしたい、取り回しをスムーズな形で配管ルートを決めていくなど、私ども施工者で色々と検討した上で、坂本さんに相談し、承認いただいた上で最終決定をしていきます。
- ———水族館の設計や施工に対応できる会社は多くはないのではないでしょうか
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坂本様 : 建設会社も飼育設備の専門業者も、各機器メーカーも対応できる会社はかなり限定されます。生物飼育は経験や実績がものを言う世界で、これらの会社にも同様なことが運営事業者から求められることもあり、新規参入者がなかなか入り込めないという特徴があります。
私が知る限り、現時点で大規模な水族館飼育設備の施工を取りまとめられるのは新菱冷熱さんを置いて他にないと思います。
もちろん、それを下支えする各種機器メーカーさん、積水化学さんのような配管材メーカーさんのノウハウや実績があってのことです。
———後編につづく。後編ではOPENまでの魚たちの事情や積水化学の合成木材FFUの採用までの経緯についてレポートいたします。
Products
今回ご紹介させていただいた製品
高耐候性硬質ポリ塩化ビニル管・継手 エスロンUVストロング
製品解説———
紫外線(UV)に強い耐候性向上樹脂を表層にコートすることにより、屋外用途で抜群の耐候性能を発揮する塩ビ管です。 紫外線劣化による物性低下を抑制し長寿命化を実現します。 耐候性向上樹脂と塩ビ層が強固に一体化し剥がれにくいため、塗膜の剥がれによるメンテナンスが不要。ライフサイクルコスト低減に貢献します。 NETIS(新技術情報登録システム)に登録されています。
技術名称:屋外圧力配管用硬質ポリ塩化ビニル管・継手(UVストロング)
登録番号: CB-200003-A(DV継手は除きます)
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1.耐候性促進評価(耐衝撃性)
屋外暴露の促進試験において、20年相当でも衝撃性能の低下が15%程度です。
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2.最高許容圧力
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3.耐候性促進評価(外観)
外観の変色、物性の低下を抑制します。
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4.剥離性評価
高耐候層の剥がれにくさが実証されています。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
会員登録済みの方
未登録の方
<営業担当から一言>
西日本営業本部
近畿・中四国営業部
西日本プラントシステム営業所
津田 明宏
竹中工務店の坂本様、並びに空調・飼育設備を担当された新菱冷熱工業の北山様より現場レポートのご協力をいただき、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。
当社は日頃から竹中工務店様、新菱冷熱工業様には建築からプラントまであらゆる分野で大変お世話になっております。そしてこの度は新たなランドマークとして魅力たっぷりの神戸須磨シーワールドに多彩なエスロン製品を採用してくださり嬉しく思います。
当現場ではUVストロングの特性をご理解いただき全国の水族館では初めての採用となりました。大口径の品揃えのご要望も伺い、今後の開発に活かしたいと思います。
2年余にわたり色々とご指導を賜り本当にありがとうございました。