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エスロンネオランバーFFUによる"盤木イノベーション"
尾道造船で天然木に代わり試験採用開始!
印刷版PDF(会員限定)Introduction
歴史の町、広島県は尾道市にある造船所のドライドックで、今、世界の造船業に衝撃を与える大きな試みが静かに進行しています。船の建造や修繕に欠かせない天然木の盤木。その盤木を積水化学の合成木材エスロンネオランバーFFUに置き換える。この"盤木イノベーション"について尾道造船株式会社の淺海様、田口様にFFU盤木を試験採用いただいた経緯やご感想を伺いました。
インタビュー : 2023年8月8日
Guest
(前列右から)
代表取締役専務・造船所所長 村上 一男 様
常務取締役・造船所副所長 小畑 訓男 様
(後列右から)
造船部 部長 淺海 直人 様
ドックマスター 田口 良成 様
Interview
- ———FFUのお話の前に、尾道造船様について造船部部長の淺海直人様からお話を伺います。
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淺海様 : 尾道造船株式会社は1943年創業以来、船舶の建造、修繕の両方を行う日本でも数少ない造船所として80年の実績を重ねております。独自の船型開発により積載量や燃費、船の速度の向上など船主様のご要望に応え、5~11万トンのプロダクトタンカーを中心にバラ積み貨物船、RORO船などの船を新造し、修繕してまいりました。
今回のFFU導入もそうですが、設計のリードタイムや工程の短縮、そしてコストの削減などに取り組み、船主様が求める船をタイムリーにお届けすることが我々尾道造船の使命だと思っています。
- ———設備や造船について、ドックマスターの田口良成様からもお話を伺います。
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田口様 : ここには11万トンのタンカーを建造できる長さ約260mの船台と、載貨重量トン数6万トンと4万トンの船が入渠可能な、修繕用のドライドックが2本。さらに新造船の艤装工事などのための岸壁があります。
船の底や側面の曲がりが少ない部分は向島工場でオートメーション化を進めておりますが、独自の船型から生み出される船尾や船首などの複雑な曲面部分は熟練の技を持つ職人たちが手づくりで仕上げております。
セミタンデム方式で運用している船台に搭載する船体ブロックの数は60から80。エンジンや舵、プロペラが据付けられるのもこの船台での作業で、重いものだと一つのブロックで300トンを超えるものもあります。
- ———では、ここから造船所に欠かせない天然木の盤木と積水化学のFFUのお話を聞かせていただきます。FFUの採用を決断されるまでにどのような背景と経緯があったのでしょうか。
- 淺海様 : これまで使ってきた天然木の盤木を他の素材に置き換える。言葉にすればいとも簡単ですが、造船の長い歴史の中で培われ、何千何万トンもの船の重量を受け止めてきた天然木の盤木のノウハウを別なものに置き換えるのは容易なことではありません。
尾道造船ではドライドックの盤木のほとんどに南洋材のアピトンを使っているのですが、現在は南洋材の数が減ってきており、良いものを手に入れるのには山の奥の奥まで入らなければならないほどです。
また、ウッドショックでだいぶ価格が高くなったものを買っても新品なのに割れが入っているなど原木の質が落ちてきています。詰まるところアピトン盤木の代替品を探さなければならない時期が迫っているのですが、その時になってさあ今から代替スタートというわけにはまいりません。何かないかと思っているところに田口からFFUの話があって、じゃあ試してみようかということになりました。
- ———天然木の盤木を他のものに置き換えるという試みはこれまでなかったのでしょうか。
- 田口様 : 天然木以外でという発想はこれまでありませんでした。
なぜかというと、例えば船をドライドックに入渠させて盤木に載せた後で船底に損傷が見つかったとします。そこに鋼製やコンクリートの盤木があると取り除くのが大変です。でも木材の盤木ならチェンソーで切って盤木を取り除き、損傷を直せばいい。積水化学さんのFFUも天然木と同じようにできる。これもFFU盤木の良いところです。
またFFUなら隣で火気工事をやっていても安易に火が燃え移らない。難燃性であるということも運用上のメリットです。FFUが最たる代替品なのかな、というところはあります。
- ———今お話の鋼製盤木やコンクリートの盤木にも船体と接する部分には天然木が使われているようにお聞きしていますが、尾道造船様ではコンクリート盤木の上に1mほど南洋材の盤木を積み上げてワンセット(1基)の盤木とされているのですね。
- 田口様 : 今の造船所はそれぞれの経験値で船の重みや船底の歪みを吸収できる最適の盤木を作り上げて使っているのです。ですから一口に盤木といっても造船所ごとに色々なタイプがあり、尾道造船ではドライドックの盤木にコンクリートと南洋材を組み合わせて使っています。
- ———今回のFFU盤木はドライドックでの船の修繕にお使いいただいたそうですが、船台の盤木はまた違ったものなのでしょうか。
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淺海様 : 当社の船台はスライドさせて進水させるタイプで、盤木や固定台にはドライドックと同様の南洋材を使用しています。FFUに関しては10年ほど前に一部テスト的に採用したことがありますが、当時は南洋材もありFFUが高価であったため断念しました。
しかし現在は前述のように南洋材の入手が困難になっていることから、今年から一部盤木にFFUを取り入れています。
また、将来的には固定台にも採用できないか積水化学さんと協議を行っています。ちなみに、10年ほど前に購入したFFUは現在でも使用しています。
- ———FFUそのものは10年前から盤木の一部に使っていただいていたということですね。FFUを盤木本体にとお考えになられたのはいつ頃からですか。
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淺海様 : 具体的な作業に入ったのは昨年暮れの12月。実際にFFUを用いての適性テストを行いました。
- ———ドックマスターとして適性テストの指揮をなさったと思うのですが、いかがでしたか。
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田口様 : 予備の南洋材の盤木を持っているのですが、現地で育ったものをこちらに持ってきて置いておくと、雨風にさらされて反るなどして思いの外、使えなかった。
これが今回の代替品探しの理由の一つにもなっているのですが、その点、鉄道の枕木としても使われているFFUなら安心。外で使っても反らない、ひび割れないというのであれば予備品としての価値もあるのではと思いました。心配していたのは鉄道の通過荷重と違って、船はかなりの荷重がかかるところ。
それでまず複数のタイプを買わせてもらって、積水化学の中澤さんとともに盤木としての特徴的な剪断荷重や曲げ荷重のテストを2か月ほど連続して行い、これならバキッとは割れないとの結論に至りましたので、積水化学さんの工場に行かせていただき、盤木として長持ちする最適な組み合わせを探す作業に入りました。
- ———FFUの最適な組み合わせですか。どのようなことなのか教えていただけますでしょうか。
- 淺海様 : 天然木の盤木の場合、全て繊維方向と直角に船の荷重がかかるように並べて積み上げるのですが、FFUの場合、均質であると同時に製造時の素材構成によって比重などを変えることができますよね。
その構成が異なるFFUをどのように組み合わせて南洋材の盤木と同じ形状に仕上げればコストパフォーマンスを含め、盤木として最適のものになるのか。
盤木に求められる性能を積水化学さんに話し、幾つもの組み合わせパターンをこしらえてもらってお互いに試験協力、情報交換を重ねながら3つのパターンを選び、今年7月、20セット(基)のFFU盤木を購入させてもらいました。
そして8月5日、5号ドックに入ったRORO船修繕現場での試験採用を実施。
この20基がうまくいけば、現在使っている南洋材で古くなり割れが入ったものなどから徐々にFFUに替えていこうと思っています。
- ———RORO船修繕現場でFFU盤木はどのように使われているのでしょうか。
- 田口様 : 8月に載貨重量トン数6万トンの建造能力を持つ5号ドックに入ったRORO船の全長は約200m。そのセンター盤木約200基のうちの船尾側20基にFFU盤木を置いて使っています。
南洋材とFFUの盤木は高さ調整の役割を担う矢盤木を含めて同じ形状のものを積み上げてワンセットにしていますから作業性は変わらず、FFUの方が軽量な分扱いやすくなっています。
また、貨物船だと荷物を多く積むために船底がフラットで幅も広くなっているのですが、航海中に高速力を求められるRORO船の場合、船底を絞った形になっています。
このため長さ1.4m、幅40cmの盤木のうち船の荷重がかかるのは幅40cmのうちの20cm。
この20cmの幅で船の中でも重量(今回の船の重さは約9,000トン)がある船尾側の重さを受け止めるのですから、この使い方で問題がなければFFU盤木の信頼性は一段と高まることになります。
ただ盤木は長年にわたって使用するもの。試験の2文字が取れるまでにはまだ時間がかかるでしょうね。
- ———これまで使ってこられた南洋材の盤木はどのくらいの期間で新しいものと交換されているのでしょうか。
- 淺海様 : 私が尾道造船に入社して25年になるのですが、この間にドック内の盤木を大幅に入れ替えたことはありません。
もちろん経年変化でひび割れたり、盤木のズレを防止するためのかすがいや船舶塗装の影響などで傷んだものは随時交換していますが、今回のように20基もの盤木をまとめて入れ替えたことは一度もありませんでした。
FFU盤木にはイニシャルコストが割高でもランニングコストが下がるなどの、単に値段だけではない可能性を感じています。
これからもお互いに協力しながら良いものに育てていきましょう。
———ありがとうございました。
造船の歴史とともに歩み、船を支えてきた天然木の盤木。そこに迫る資源枯渇の4文字には一抹の寂しさを感じますが、盤木イノベーションの一番手として名乗りをあげた積水化学の合成木材FFUなら造船に携わってこられた先人の知恵のかたちをそのままに受け継ぎ、次代に伝えることができると思います。
これからも積水化学のFFUをよろしくお願いいたします。
<営業担当から一言>
西日本支店
近畿土木システム営業所
中澤 英樹
ドックの盤木は特に強度・重量・滑り性能・耐久性・耐熱性・加工性・製作可否等様々な要求品質があり、厳しい条件を求められる用途ですがFFUはこれらの品質を十分発揮できる機能を持つ素材だと考えています。
今回の盤木の仕様決定にあたっては尾道造船様に弊社の滋賀栗東工場へおいで頂き、現在使用のアピトン材(南洋材)との強度比較をする等検討致しました。
尾道造船様は将来を見据えた深い洞察で多くのアイデアを下さり、FFUの繊維方向を変えたり弊社のFFUリサイクル材を組み合わせたりと、工夫した仕様に仕上がりました。
今後もご期待に沿えるよう協業を重ね、より良い仕様が提案出来るよう努めて参る所存です。
将来的には造船業界全体の盤木更新の魁になればと思っています。
Products
今回ご紹介させていただいた製品
ガラス長繊維強化プラスチック発泡体
エスロンネオランバーFFU
製品解説———
エスロンネオランバーFFUは、硬質ウレタン樹脂発泡体をガラス長繊維で強化した合成木材です。天然木材に代わる素材としてあらゆる分野で使用可能。自然環境保護に役立つ素材として注目されています。
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1.天然木材のように
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2.プラスチックだから
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1.水処理施設に
覆蓋
耐久性に優れ、水に浮く軽さを持ち、万一落下した場合も回収が容易です。長期使用品のリユースが可能でライフサイクルコスト削減にも貢献します。
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2.港湾施設に
浮桟橋
耐水性・耐食性に優れ防腐処理の必要が無く、水質に影響を及ぼさないため環境に配慮した設計が可能です。
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3.斜面防災に
受圧板
施工性に優れているため、工期短縮やコスト削減に寄与します。また、柔軟な設計対応力で、現場にマッチした製品を提案しています。
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4.鉄道施設に
合成まくらぎ
コンクリートと同等の品質安定と耐久性能をあわせ持ちながら木材のように施工でき、鉄道会社各社に採用されています。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
会員登録済みの方
未登録の方
<製作工場スタッフから一言>
滋賀栗東工場 機能材技術課
髙橋 勝仁
弊社工場は日本の中心に近い滋賀県栗東市に位置し、鉄道や高速道路からのアクセスも良い所に立地しています。長年にわたって様々な用途にご使用頂いているFFUですが、造船会社のドック内への採用は殆ど経験が無く、実際に尾道造船様のドックの中の設置の様子を視察させて頂いた時は造船現場のスケールの大きさに圧倒されました。
これまで使用されてきたアピトン材との圧縮強度比較試験では、尾道造船様に弊社滋賀栗東工場へお越し頂きFFUならではのガラス繊維補強効果によって現状品同等以上という結果をご確認頂きました。このような他素材との比較試験をすることは我々の知見を深めることになるので感謝しております。
盤木の形状は弊社が得意としている鉄道のまくらぎとは異なる形状であり特殊な形状を求められることがありますが、製作方法に工夫を凝らす・量産しやすい製品形状(仕様)を設計する等の検討を行いながらお客様に納期・品質についてご満足いただけるよう努力していく所存です。