- #ポリエチレン管
- #金属代替
- #施工効率化
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Introduction
神奈川県の清川村と伊勢原市大山地区で配水用ポリエチレン管が採用されました。実際に施工を担当された豊建設株式会社の渡邊会長にポリエチレン管の今後の展望をお話いただきました。代表取締役社長の渡邊様と現場代理人の米澤様には実際に施工された感想を伺いました。
インタビュー : 2023年8⽉9日
Guest
豊建設株式会社
取締役会長 渡邊 宇之助 様 (写真右)
代表取締役社長 渡邊 淳矢 様 (写真左)
現場代理人 米澤 智士 様 (写真中央)
Interview
- ———渡邊会長は生活衛生事業功労者(水道関係功労者)厚生労働大臣表彰を受賞され、今年度の全国管工事業協同組合連合会(全管連)の賀詞交歓会にて表彰をお受けになられましたが、今までどのようなお仕事に注力してこられたのでしょうか
-
渡邊会長 : 高校卒業後、いすゞ自動車に10年勤務しました。
28歳の時、将来水道工事店を開業しようと決断し転職、水道工事を一から学び、42歳の時に会社を立ち上げました。県内広域水道企業団における酒匂水系建設工事での山岳トンネル建設の影響による井戸枯渇対策で臨時給水工事を施工させていただきました。その後、宮ケ瀬ダム建設に伴い、清川村簡易水道事業整備計画の依頼を受け基本設計を提案させていただき、また、認可後においては送配水管布設工事の施工をさせていただきました。水道事業に携わり52年、創業以来一貫して「信用第一」を肝に銘じ地域と関わり、何事にも挑戦してきました。
- ———ありがとうございます。それではこの度、配水用ポリエチレン管で施工した、神奈川県営水道の大山地区についてお聞かせください
- 渡邊会長 : 大山地区改良工事の現場は、伊勢原市を代表する観光地です。日本遺産に「大山詣り」として登録されており、通称「駒参道」と呼ばれています。362段の階段に27か所の踊り場があり、その踊り場に1~27の大山駒タイルが明示されています。
この道路は車両通行止めの生活道路で土産店が左右立ち並ぶため、工事をするとなると車両および機械は入れず、すべて人力施工となります。そのため本来であればダクタイル鋳鉄管GX形で施工すべきところ、大山地区においては軽量な青ポリ管の提案を行い、認めていただいた次第です。
青ポリ管の運搬配管は軽量ゆえ、運搬も楽に作業をさせていただきました。
私どもの施工は第2回目工事で、夜間に施工をさせていただきました、大小の転石がごろごろ出てくる中、青ポリ管の本管や給水分岐のEFサドル、給水管を陸で融着したりもしながら施工を進めました。
難工事の現場でありましたが、提案した通り青ポリ管は人力で搬送もでき、また、給水装置についても清川村で採用された青ポリのEFプラグ付サドル、青ポリ給水管のEF接続でしたので、配管作業には慣れており積水化学さんに新たな施工指導をしていただくこともなく、無事に完工できた次第です。
これが鋳鉄管で施工するとなっていたら、大変だったと思います。渡邊会長 : 高校卒業後、いすゞ自動車に10年勤務しました。
28歳の時、将来水道工事店を開業しようと決断し転職、水道工事を一から学び、42歳の時に会社を立ち上げました。県内広域水道企業団における酒匂水系建設工事での山岳トンネル建設の影響による井戸枯渇対策で臨時給水工事を施工させていただきました。その後、宮ケ瀬ダム建設に伴い、清川村簡易水道事業整備計画の依頼を受け基本設計を提案させていただき、また、認可後においては送配水管布設工事の施工をさせていただきました。水道事業に携わり52年、創業以来一貫して「信用第一」を肝に銘じ地域と関わり、何事にも挑戦してきました。
- ———改めて、清川村についてもお聞かせください
- 渡邊会長 : 清川村は神奈川県の北部に位置し、愛甲郡に属する神奈川県唯一の村です。その清川村さんでは約20年前から、配水用ポリエチレン管が採用・施工されています。
今回は、清水ヶ丘団地内の鋳鉄管を7年計画で青ポリ管に入れ替える工事です。この工事から給水装置についても青ポリによる融着一体化が採用されています。
- ———話は戻りますが、神奈川県営水道の大山地区の施工について詳しく教えてください
-
渡邊会長 : 最初にも申し上げましたが、車が入れない、人力での運搬・施工が必要な現場です。
GX耐震管は重量物となってしまうため、この現場では搬送も埋設工事も難しい状況でした。
私どもはGX管も青ポリ管も日常で施工しています。
ですから、鋳鉄管には鋳鉄管の良いところもありますが、ポリエチレン管にはポリエチレン管の良いところがあると認識しているつもりです。
今回のような現場では、車が入らないため人力での運搬・施工が必要な現場、かつ耐震化も望まれました。このような場合ですから「青ポリ管」の採用となりました。ともあれ、管種についてはそれぞれの事業体の水道事業管理者さんが最終判断することであって、私たちは相談があればこれまで培ってきた経験から助言をしますが、工事業者として発注者様の決めた仕様に従って工事をするまでです。
- ———これまでにダクタイル鋳鉄管と配水用ポリエチレン管を使用したご感想をお聞かせください
- 渡邊会長 : 私が業界に入って52年になりますが、当初はA型鋳鉄管をメインに施工していました。
継手部が、5年サイクルくらいでマイナーチェンジや型式変更がありました。
メカニカルジョイントのA形からK形になり、タイトン型に変わり、NS管が出てきて……次はGX管になって……と。細かく言えばもっとあったと思います。
非常に頑丈な管材ではありますが、マイナーチェンジの度に我々業者は、工具や機械を替えなくてはいけなくて大変でした。
ポリエチレン管は50年前の黒ポリ管と今の青ポリ管とでは特性が全然違うものに変わってきました。
継手部を融着する技術は耐震性を考えれば良いですね。
過去の反省を活かしつつ鋳鉄管と競うようにポリエチレン管の樹脂自体の性能や継手構造をどんどん進化させ、今ではとても良い管材料になっていると思います。今後鋳鉄管材料費の高騰などもあり、青ポリ管の採用が全国的に変わりつつあると聞きました。材料費の見直しを考えると将来は青ポリ管に移行することと思います。日水協(日本水道協会)の規格がとれているφ150までがボーダーラインとなりそうですが、私個人はφ200まで青ポリ管のメリットが大きいと思っています。ガス用ポリエチレン管なんかではφ200まで使っていますしね。
- ———今後、神奈川県の大都市で青ポリ管の採用を伸ばすには何が必要でしょうか
-
渡邊会長 : 企業庁さんに於かれては100年を目標に水道施設の更新すべく工事を推進しております。その中で材料費の割合は大きな金額になると思います。その時に、青ポリ管を採用した場合の材料費はどうなのか?ダクタイル鋳鉄管で施工した場合との差はどのくらいになるのか?耐久性はどうなのか?それぞれの事業体が考えるときかな?と思います。
水道事業というのはご存知の通り、都道府県、市町村が管理者です。
今ではダクタイル鋳鉄管から青ポリ管に管種変更をしてきているのは、小都市から進んでいるようです。神奈川県では清川村さんみたいな所ですね。水道事業体の組織が複雑ではない分、そろばんがすぐに弾けるから「これだ!」ってやっていくことができるのですね。 -
渡邊会長 : 神奈川県企業庁水道局は12市6町に給水している事業体です。過去に黒ポリ管を採用して漏水が多発して現在でも布設替えを実施している状態です。
したがってポリエチレン管に対するアレルギーをお持ちの方々が多くおられるので一概に「これからはポリエチレン管だ」と打ち出すことが難しいのかもしれません。ただ、最近は小田原市や横須賀市、秦野市や三浦市なども青ポリ管が本採用され、神奈川県内でも採用が進んでいるようです。
2つの管材の耐震性が同等なのであれば、限られた事業費の中では当然、コストダウンを望める方を採用するべきだと私は個人的に思います。
施工性も良いので県全域で使ってもいいと思います。ただ、私どもは施工業者なので管種を決める権限はございません。決めるのは事業管理者の方なので、あくまで意見です。 - 私は昨年、給水装置技術振興財団さんの「給水用ポリエチレン管の経年劣化に関する調査検討報告書」の検討会に、神奈川県管工事協同組合連合会の立場で検討委員として出席させていただきました。
神奈川県営水道からも事故の多い黒ポリ単層管(2種管)を試験体として提出しており、軟質の1種管ともに非常に経年劣化が早い材料だったことが報告されました。
神奈川県企業庁やさいたま市で多く使われていた2種管は布設後40年ほどで漏水が多発し、49年で大幅に漏水するという結論でした。
学識経験者で参加された栗山教授は青ポリ管の100年寿命を検証された先生と聞いていますが、同様の技術検証で青ポリ管は耐久性が大幅に改善されているというのも安心材料ですね。
- ———ご意見有難うございます。神奈川県企業庁においてポリエチレン管が本採用いただけるよう、メーカーとしてがんばっていきます。
-
渡邊会長 : これは喫緊な課題だと思っているのですが、ダクタイル鋳鉄管から青ポリ管に材料を変えれば、当然、コストダウンが見込めます。
コストが大幅に削減可能なのであれば、施工性を少し改善しても全体として経済効果は十分に出ると思います。その分を施工者へ還元してもらいたいのです。今後、少子高齢化で人手不足はさらに加速すると予想されています。これはどこの業界も同じであると思います。我々、水道工事業者の仕事はインドアの仕事ではなく常にアウトドアの仕事です。温暖化の話題が出るようになって久しいですが、我々は直にそれを実感しています。夏場の気温は連日36度、37度と高く推移し、現場の舗装道路の上では40度を超えることがほとんどです。
さらに道路舗装では168度の加熱合材を引き均さないといけない。そうすると50度、60度のなかで工事をしなくてはいけないんです。いつ熱中症になってもおかしくない非常に過酷な労働環境にあります。
雨・雪・台風・風のほか近年増える集中豪雨。工事は日々戦いです。
先々を考えると「水」っていうのは「命の水」なんです。災害時でも問題なく「命の水」を届けられる水道施設を構築していかなくてはいけません。 -
渡邊会長 : ですが、この過酷な労働条件・環境下で働きたいと言う若者はごく稀です。
このままでは水道工事をやりたいと思う若手はいなくなってしまいます。しかし残念ながら、屋外の環境を変えることは叶いません。今後も変わりなく夏は暑く、冬は寒いでしょう。
特別に屋外手当を考えるとか、根本的な歩掛の改訂も必要であり、水道工事店の魅力を発信できなければ、未来の担い手、後継者は育ちません。繰り返すようですが、コストダウンを見込めるのはパイプの材料費の部分であり、施工性が良くなり掘削幅も減らせた=施工費が更に安くなる、ではありません。ダクタイル鋳鉄管から青ポリ管に変えることで、2~3割のコストダウンが望めるのであれば、その一部分は施工労働の改善費に回して、業者が喜んで水道工事業をやりたい!と思える環境にして欲しい。業界全体が継続できるように投資をしてほしいと願っています。 -
- 貴重なご意見ありがとうございました。肝に銘じて業界活動に取り組みたいと思います
Interview
- ———ここからは施工についてお伺いします。青ポリ管の作業性についてはいかがでしょうか
-
渡邊社長 : パイプ自体が軽いですし、現場における作業はしやすいですね。狭い現場では“持って運べる”ということは大きなアドバンテージだと思います。
- ———清川村では立坑の掘削と青ポリ管の融着の並行作業をされたとお聞きしました。実際に並行作業をしてみていかがでしたでしょうか
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米澤様 : 掘削した立坑内での作業しかできない場合、日進量だけで言えば、GX管の方が感覚的に施工距離をとれるような気がします。ただし、青ポリ管は掘削作業に並行して陸での融着もできるので、そういった条件がとれる場合は青ポリ管の方が早く施工できる。工事の工夫次第な気がします。
渡邊社長 :掘削と融着配管とを並行作業できると青ポリ管の方が作業性は上がりますし、軽いのもいいです。現場の人員を減らせるというのは強みですね。
コラム①
エスロハイパーJWとAWの見分け方
積水化学のポリエチレン管には、主に配水用途に「エスロハイパーJW」と給水用途の「エスロハイパーAW」があります。この2製品は共に同じ呼び径のPE100の青ポリ管ですが、外径規格が違います。EF継手を間違って使用すると事故につながりますので間違いの無いように施工する必要があります。エスロハイパーJWとAW。その見分け方は?
エスロハイパーJW | エスロハイパーAW | |
---|---|---|
管 の 印 字 |
黄色の印字 |
白色の印字 |
継 手 の 袋 |
ピンク色の袋 |
白(透明)の袋 |
- ———陸付け出来ない場合、配水用ポリエチレン管では施工距離を伸ばすことは難しそうですか
-
米澤様 : 施工距離を取れる、と言いましたが重機や人員が確保できればGX管でも工事は進むといった具合です。青ポリ管の施工距離がGX管に及ばないケースとしては「融着時間」と「冷却時間」を有効に使えない現場の場合ですね。融着や冷却を立坑内でしないといけない場合には、その間は埋戻しも出来ない、管も動かせない。ここをどうにか出来る場合には施工距離は伸ばせます。
渡邊社長 : 掘削と融着配管とを並行作業できると青ポリ管の方が作業性は上がりますし、軽いのもいいです。現場の人員を減らせるというのは強みですね。
米澤様 : 急ぎで分水取り出しをしないといけない場合には、どうしても水圧試験の待ち時間がもどかしくなる場合があります。先程、EFプラグ付サドルも陸付け施工してを空揉み(穿孔)ができる
(※事業体による)とお聞きしましたので、これからは造成の現場などで試してみる価値があるかと思います。
- ———急ぎ取り出しが必要なケースの場合、水圧試験済みのEFプラグ付サドルが短管にセットされたプレハブ品もあります
-
渡邊社長 : そうなんですね。聞いた感じではチーズのように使用できるので、交差点などの極めて短い時間での施工が求められる現場で使えると思いました。これならば、多少コストUPになっても、融着・冷却の時間や水圧試験の手間までなくなるので、とても良いと思います。
米澤様 : 現場で面倒になりそうなところは設計の段階である程度わかってくるので、短時間の施工が求められる所にはスポットで採用して欲しいです。
- ———その他に施工面で気になる部分はありますか
-
渡邊社長 : 最近もあったのですが、漏水がものすごい現場についてです。ちょっとした雨や水場でのEF接続はテントや水替え等で全然問題ないのですが、強烈な漏水現場でEF接合をどうしようかなってなったときの問題です。
(カタログを見て)なるほど、ダクタイル鋳鉄管と同様に、コスモ工機さん、大成機工さん、川西水道機器さんなどから各種ジョイントや補修継手がたくさん出ているんですね。どうにもならないときに、メカ継手が使えるのはいいと思います。
何が何でも融着しなくてはいけないとなると、漏水現場や激しい湧水地だと限界があります。いきなり大雨が降ってきてしまうこともあります。
補修用のものでも用意をしておけば、そういった現場でも対応できるのは嬉しいですね。
(※使用には事業体・発注者の許可が必要です)
コラム②
気温と冷却時間の関係
ポリエチレン管には、融着後に冷却時間が設けられています。夏の暑い日と冬の寒い日で冷却時間に差はないの?
環境温度を40℃以上に設定した時と、氷点下で設定した時の、融着終了後の「融着界面」の温度変化を調べたところ、環境温度によって冷却時間に差はほぼないことがわかっています。
ターミナルピンの所に液体窒素を充填しワイヤーだけ冷却する実験などもしましたが、融着部全体の温度低下には大きな影響は与えられない事がわかっています。
樹脂内の熱伝導で冷却が進んでいく為、水をかけたり水につけても冷却時間は短くなりません。
-
米澤様 : 1年くらい前に出てきたサドルかんたんクランプも新製品ですよね。あれ、いいですね。慣れればこちらの方がやりやすいと実感しています。
融着後に取り外さなくても良いというのが非常に楽です。工具を別で購入やレンタルする必要もないので、発注時にも煩わしくないですし、EFプラグ付サドルひとつにつきサドルかんたんクランプが1個セットでついてくるのも助かります。さらに、これ、軽くて引っ掛けやすいのも良いですね。
金属のサドルクランプはそこそこの重量があります。
湧水地などで金属クランプを取り外すときに、引っ掛ける側が地面に落ちてしまい、泥で汚れてしまうと清掃しなくてはいけないので手間になることがあります。サドルかんたんクランプでしたら取り付けも楽ですし、取り外す必要が無いので忙しい時などは特にありがたく感じます。
- ———それでは最後に積水化学へのご要望などがあれば何でもお聞かせください
-
渡邊社長 : 今回、カタログを見させていただき色々と補完製品が充実しているとのお話を伺えました。欲しいと思っていた製品も実はもうあったりしていて、品揃えが増えていた事に驚きました。今後も新しい製品の品揃えなどがあれば、ぜひ教えていただければと思います。
米澤様 : 私達も努力を惜しみませんが、融着・冷却中にできる事が増えるような製品の追加や、より良い施工方法(手順)の考案などに期待しています。
渡邊会長 : 積水化学さんへの要望というわけではないのですが……。最後に繰り返しとなってしまいますが、歩掛についてです。私どもが工事をするそのほとんどが市街地での工事となっています。
歩掛というのは"大型工事"かつ"新設工事"に"ジャストインタイム(待ち時間無し)"で部材が入ってきて、その条件での日進量から単価を設定しています。
分かりやすい例で言うと、例えば世話役1人と作業員2人、普通作業員が7人で10人のパーティの時に機械を使って施工するとなったとき、1日あたり2,300平米の施工ができる計算になります。市街地(4m道路を想定)の場合では2,300平米を4m道路で換算すると575mになります。
575mもの舗装工事が市街地工事で発注されるわけありませんよね。もし仮に575mの工事が出たとしても1日仕事になります。現実的ではありません。事実、1日の工事では20m程度が限界です。ですが都道府県市町村さんはこの計算式をもって工事費用の計算をします。
我々は都道府県市町村さんからお仕事をいただいていますが、その現場のほとんどが市街地での工事です。
道路工事条件も「交通道路規制」「生活道路出入口確保」「交差点片側施工」「住宅門扉」「各種交通標識」「通学道路」など、定められた設計条件とは大幅な相違があり、地面を掘る際も、電気やNTT、ガス、水道・汚水・雨水管など、注意を払う埋設物も多く存在しています。さらに冬は寒く、夏は暑い過酷な現場です。
令和6年度から、水道整備・管理行政が厚生労働省から国土交通省及び環境省へ移管されます。このタイミングで、水道の未来の為に歩掛についても検討してもらいたいものです。工事にかかる費用は決して材料費だけではありませんから。
市街地における歩掛のほか、その他にも各現場条件に応じた歩掛をしっかり検討してもらいたいです。
積水化学さんも材料メーカーとして歩掛策定などに係る際には、こうした事情も覚えておいてください。
———ありがとうございました。今後も施工業者様の負担軽減を目指して更なる易施工化・施工時間短縮など製品開発を進めてまいります。また、施工条件の考え方や歩掛策定についての課題も、今後の活動の参考とさせていただきます。本日はお時間をいただきありがとうございました。
コラム③
スクレープした管はその日に使わないとダメ?
ポリエチレン管は、融着前に必ずスクレープする必要があるけど削り置きってしちゃダメなの?
スクレープした管は当日中に必ず使用しなければなりません。スクレープした所も酸化が進みます。そのため、スクレープした管を在庫しても翌日以降そのまま使う事は出来ません。
電動スクレーパーでスクレープした製品を2日目以降使用したい場合には、手カンナでもう一度スクレープするか、スクレープ部を切り落として新しい管端をスクレープしてください。
※配水・給水用ポリエチレン管の場合電動スクレーパーでの2回スクレープは推奨しておりません。
神奈川県企業庁
大山地区で青ポリ管の採用を提案し限定採用
Introduction
神奈川県企業庁は、神奈川県が経営する地方公営企業※です。「水道事業」「電気事業」「公営企業資金等運用事業」「相模川総合開発共同事業」「酒匂川総合開発事業」の5つの事業を民間の会社と同じように「独立採算」で経営しています。神奈川県企業庁の県営水道は、神奈川県民の31%を占める約285万人に給水をしている水道事業体です。
※地方公営企業とは、都道府県などの地方公共団体が、住民の福祉増進を目的として経営する企業で、経済性の発揮が求められています。
今回は神奈川県企業庁厚木水道営業所の給水区域である、伊勢原市大山地区において、大山阿夫利神社へ伸びる参道でエスロハイパーJW・AWが限定採用(2020年~2023年度)となっており、検討の当時、工法や材料選定をされた神奈川県企業庁の椎野様に、当時を振り返りながらお話を伺いました。
インタビュー : 2023年8⽉9日
Guest
神奈川県 企業庁酒匂川水系ダム管理事務所
副技幹 椎野 勇人 様
Interview
- ———まず、椎野様についてお聞かせください
- 椎野様 : 入庁して最初はダムでの仕事を5年務めました。その後、営業所に異動となり、そこで水道を担当することになりました。
はじめは水道の維持管理についての業務に携わり、次に配水管など水道施設の設計を担当するようになりました。
- ———大山地区での配管設計で大変苦労されたと伺いました。経緯などをお伺いできればと思います
-
椎野様 : 私が水道の部署へ異動した当初から、大山地区の水道設備は古くなっており、漏水で配水池がからっぽになったり……。という事故が発生していました。
配管をリニューアルするという話が度々持ち上がってはいたのですが、施工困難な場所である事などで協議はスムーズに進まない状況が続いていました。
当初の話について、私も耳にはしていましたが、まだ担当メンバーではありませんでした。リニューアルのプロジェクト自体はすでに発足していて、配水管部はステンレス管で施工するという絵も描かれていたと記憶しています。ですが、現場は観光地です。地元調整や広報、ステンレス管を搬入する方法も考えなくてはいけないし……どうしようか?というところで計画が止まってしまっていたそうです。椎野様 : 2019年度、いよいよプロジェクトを進める事になり、私も正式なメンバーとして改めて工法や材料の選定・現場の地質調査を行うことになりました。
大山地区の特長として、狭く急な階段や坂道に配管しなくてはいけないという現場条件に加え、参道には店舗も多く、施工時間の制限もありました。
難施工という事もあり、施工業者さんなどにもヒアリングしたところ、鋳鉄管などの金属管ではとても施工できないとの話が上がって来ましたが、近隣の清川村で施工が始まっていた「配水用ポリエチレン管」であれば施工出来るのではないか、との話が挙がってきました。そこで、配水用ポリエチレン管を候補に入れて検討を進めることになりました。
- ———配水用ポリエチレン管(青ポリ)管は、もともとご存知だったのでしょうか?
- 椎野様 : 配水用ポリエチレン管の存在自体は知っていました。
ただ神奈川県企業庁では配水管としての採用実績がなかったので、当初は正直なところ「許可が下りるのは難しいだろうなぁ。」という思いが脳裏によぎっていました。
- ———それでも配水用ポリエチレン管(青ポリ)が候補に残ったのはどうしてでしょうか
- 椎野様 : 配水用ポリエチレン管に好印象を持っていた私が工法や材料の選定を任されていたこともありますが、先に話しました現場条件が極めて厳しく、施工業者さんが配水用ポリエチレン管でないと仕事を受けることが難しいだろう、という事でしたので、例え金属系の管種で設計を仕上げても工事を請け負ってもらえないのであれば意味が無い…、というのが一番の理由かなと思います。現場は狭く急な階段や坂道ですので、金属管を仮置きしたり、担いで登ることは現実的ではありませんでした。
これまで話が進まなかったのは、管材の運搬・布設をどうするのか。ここがネックになっており、答えが出ずにいたんです。
- ———参考までに採用候補の管種やこれまで採用してきた管種を教えていただけますでしょうか
-
椎野様 : 管種の選定では、通常の配水支管として企業庁が本採用しているダクタイル鋳鉄管のGX形と、配水用ポリエチレン管とを比較しました。以前はSUS316のステンレス管(溶接ではなく継手で接続の仕様)も候補に挙がっていたようですが、配水管としては耐震管に区分されていませんし、ダクタイル鋳鉄管と同じく重量物であったため、部署内の協議により比較対象から除外するという話になりました。また、管種ではありませんがガス工事で実績のあるポリエチレン管による非開削工法も検討しましたが、大小の礫だらけの当地区では採用できませんでした。
- ———実際に限定採用となった決め手は何だったのでしょうか
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椎野様 : 先程も話をしましたが、施工業者さんの要望を尊重し、配水用ポリエチレン管を候補に挙げ、本庁に資料を提出して審議いただきました。結果として、厚木水道営業所からの要望を認めていただきました。施工性として重量のある金属管ではなく配水用ポリエチレン管の方が今回の現場状況にふさわしいとの判断をいただけたんだと思います。
現場は狭く急な階段や坂道ですので、搬入方法がネックとなっていました。当初はダクタイル鋳鉄管よりは多少軽量なステンレス管で施工することを考えていたそうです。しかし、ステンレス管を搬入するためにも、結局は鋳鉄管と同様の検討が必要でした。モノレールのような機材を使うか、隣に川が流れているのですが、そこにステージを作って搬入できないか……。あれやこれやと考えを巡らせていたようでした。
でも配水用ポリエチレン管なら施工業者さんの言うとおり断然軽量で、人力で運搬ができるので、一番のネックだった運搬についての問題はクリアされます。椎野様 : また、今回の現場は夜間工事だったということもありますね。夜間工事ですので、短時間で施工する必要があり、かつ、騒音にも気を配らなくてはいけません。
配水用ポリエチレン管でしたら、人力で搬入できますし、スピーディな施工もできると聞いていました。管の切断時に大きい音が鳴ってしまうこともありません。
実際には施工時のコスト縮減にも繋がったのですが、今回の管種選定時にはコスト面は最重要事項ではなく、後から付いてきた、といった感じです。仮に高価だったとしても、この現場においては最適な材料があれば使わざるを得なかったのかなと思います。
材料選定において重視していた施工性や搬入性が、現場状況・条件にふさわしい材料として配水用ポリエチレン管が候補になりましたが、全国的に耐震管材として十分な採用実績もあったため、最終的に本地区では限定採用となりました。限定とはいえ「採用」ですので、きちんと特記仕様書を作成する事になりました。こちらは途中で異動したため、後任担当の清水さんにバトンタッチしました。給水管は外径の違いについて検討し、JIS外径品が良いのでは…という話まではしていましたが、最終的にどうなったのでしょうか。
(※実績が最も多く、かつ給水装置工事技術指針2020に掲載されているという理由で、PWA規格で限定採用となっています)
- ———実際に配水用ポリエチレン管を使用したご感想をお聞かせください
-
椎野様 : 施工性が悪かった等の声は聞いていません。今回のような狭く急な階段や坂道のような現場では施工性・搬入性ともに間違いなく最適な管材であったと思っています。あと、今回設計を担当した当初、配水管にはポリエチレン管を使ってみようと思ったのですが、給水装置は従来通りで考えていました。しかし、本庁に相談した時、水道施設課の佐藤さん(現寒川浄水場 浄水課 課長補佐)から「配水用ポリエチレン管で検討をするなら、サドルから給水管も融着で検討してみては?」とアドバイスをいただきました。佐藤さんは営業所配属時代に積水化学さんのキャラバンで配水管と給水管の説明を受け、興味を持っていたようです。私もこの話を聞き、配水用ポリエチレン管を採用するのであれば給水管と配水管を一体化できるしくみには魅力を感じています。私たちが管路設計をする時、「配水管を耐震管にすれば大丈夫」という考えをついつい持ってしまいがちですが、よくよく考えてみると、私どもは配水本管→給水管→水道メーターへと水を送り、ユーザー宅のメーターを回して初めて収入となります。
しかしながら配水管は「耐震管」だけど、サドル分水~給水管路が耐震化されてない状態では、確かにユーザーに「安心して水道を使ってください」と胸を張って言えないじゃないか、と思う所はあります。椎野様 : 「配水管に何管が採用されて、給水管(第一止水栓まで)は何管を使用している」というように、給水管・配水管を別々に考えるのではなく、「給水配水一体化」のように、まるっと水道施設を耐震化できるセットを採用することがユーザーの安心にも繋がるのではないかと思います。また、耐震化に併せて、使用する材料がすべて100年の長期寿命が期待されている材料である事も、将来を考えると良い事だと思います。
- ———今回は限定採用となりましたが、本採用にならない問題点があればお聞かせください
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椎野様 : これはあくまで企業庁としてではなく、個人的な見解ですが、技術的には何も問題はないと思っています。
経済性も配水管、給水装置ともにオススメですし、維持管理についても、ダクタイル鋳鉄管と同様にメカの補修継手類が充実しています。スクイズオフ工法等で本管も容易に補修が可能だと聞いています。
あとはφ200の日本水道協会規格が取れたら、多くの事業体で採用は広がっていくのでないかと思いますよ。
ただ、神奈川県企業庁では昔使用された「黒ポリ管」(単層管)の劣化による漏水事故が多発しており、この補修に莫大な予算と労力をかけてきました。私も維持管理部門にいたので分かりますが、そのため、「ポリエチレン管」という名前を聞くと無条件で拒否反応を示す方も多くおられます。事故が今でも継続しているのは事実なので仕方ありません。しかしながら、この「青ポリ管」の話を伺うと、昔と今とでは結晶構造や結合の仕組みなど色々と進化しているとの事ですよね。
厚労省の資料でも100年耐久と記載いただいたと聞いています。ですから、私は個人的には納得していますが、納得できない同僚も多い…、という事実も、本採用化となると「問題点」といえるかもしれません。高密度ポリエチレンの分子量分布の改良
高密度ポリエチレンの結晶構造の改良
- ———今後のポリエチレン管のご採用についてお聞かせください
- 椎野様 : 現在、私は水道担当の部署ではないので、具体的には申し上げられませんが、個人的には配水用・給水用ポリエチレン管に対してネガティブな印象はありません。
しかしながら神奈川県企業庁は大きな組織ですので、まだポリエチレン管(青ポリ)の事をよく知らない方もいます。
先ほどの「黒ポリ管」のように、ポリエチレン管について誤解をされたままの方や食わず嫌いをしている方もいると思います。単純に管種の切り替えが面倒と感じる方もいるでしょう。
私は「採用したい」というスタンスで積水化学さんに問い合わせましたが、そういった動かないところを動かすPR、営業活動、更には「黒ポリ管」の悪いイメージをきちんと払拭すべく多くの方にきちんとした「説明」を繰り返す事が、今後は最も必要なのではないかと思います。
後、今回の案件も「あと少し」耐圧性能が高ければ、もう1ルートポリエチレン管を使えた系統がありました。
後日話を聞くと、水撃圧と合わせれば許容値内であったようですし、安全率の考え方次第で、他用途や国際的には問題なく使えていると知りました。こうした柔軟な設計の考え方なども整理されると、業界として助かるのではないかと思います。
- ———最後に積水化学へのご要望があればお聞かせください
-
椎野様 : メーターとの接続で、乙止のバルブの所を砲金製ではなく耐食性の高いステンレス製、または高密度ポリエチレン製で、是非作ってほしいなと思います。
コストとの兼ね合いもあるとは思いますが、バルブにも「青ポリ管」網と同等な耐用年数の部材を揃えることで、更に良い水道施設になるのかなと思います。例えば全体のコスト縮減は金属管からポリエチレン管への変更で実現するので、その分ワンランク上の部材を選択できる幅があっても良いのかと思います。
———ありがとうございました。今後もコスト縮減のみならず更なる易施工化・長寿命化提案を目指して製品開発を進めてまいります。本日はお時間をいただきありがとうございました。
大山阿夫利神社のご紹介
大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)は、神奈川県伊勢原市の大山(別名:雨降山(あふりやま))にある神社です。心願成就、商売繁盛、社運隆盛などのご利益があるとされています。
大山の山頂に鎮座する本社と中腹に鎮座する下社があり、下社までは大山ケーブルカーでアクセス可能です。
関東総鎮護の霊峰として、神代の昔から、多くの人々の願いに寄り添ってきました。
その御由緒や御祭神、また今に続く「大山詣り」の伝統文化が息づいています。
Products
今回ご紹介させていただいた製品
エスロハイパー給水配水一体化システム
- 給水管引き込み部耐震化の実現
- 既設管との確実な接合を実現するJIS外径寸法
- 従来管路との高い互換性・新旧の高い視認性
- 長寿命な配水・給水システムを実現
柔軟・一体管路で地震に強いライフライン
積水化学の施工講習会
水道配水用・給水用ポリエチレン管は現場にて「安心・安全」な施工をしていただくため、積水化学のメーカー施工講習会またはPWA*施工講習会の受講をお勧めしています。
※建築設備用ポリエチレンパイプシステム研究会(給水部会)
青ポリ本管及び給水装置の施工の要点、効率的な施工方法、注意点などを習得します
施工講習WEB受講証
所定のWEB座学講習+テストを修了した場合に「実技講習なし段階」で発行
施工講習修了証すべて無料です
所定の座学講習(WEB講習含む) + テスト + 実技講習を修了した場合に発行
実技講習の追加受講でバージョンアップ!
- ● 原則スマホ表示のデジタル修了証です。カードタイプはご相談ください
- ● 給水管は業界団体承認も可能(建築設備用ポリエチレンパイプシステム研究会(給水部会))
- ● 修了証裏面に配水・給水工事に必要な関連項目において講習を受講した内容に●が付きます。POLITEC講習会と同様、メカ継手・鋳鉄サドルの施工説明も実施しております。
これ以降は会員の方のみご利用いただけます
会員登録済みの方
未登録の方
<営業担当から一言>
環境・ライフラインカンパニー
東日本支店 横浜営業所 児玉 魁音
神奈川県内でエスロハイパーJWの認知度が拡大する中、給水人口が全国4位(県内2位)の大規模事業体様である神奈川県企業庁様に「本管から給水までオールPE」をご評価いただき、大山地区にて限定採用頂いたことに感謝しております。
また、製品の強みである「耐久性・軽量」に着目いただいたこと、嬉しく感じております。
今後は神奈川県営水道全域の配水管で本採用を検討いただけるよう、メーカーとして頑張っていきたいと思います。
今後も皆様のご期待に沿えるよう活動に取り組んで参ります。