防災貯留型トイレシステムで安全な学習環境を実現(早稲田大学)
印刷版PDF(会員限定)災害用マンホールトイレ(貯留型)防災貯留型トイレシステムを設置
災害用トイレ9基を下水道に直結
私立大学の雄、早稲田大学。2011年3月11日の東日本大震災の教訓を取り入れようと、大学側でもハード面、ソフト面ともに様々な活動を行っています(Waseda Vision 150)。
その一環として、積水化学の災害用マンホールトイレ(貯留型)防災貯留型トイレシステムがキャンパスに設置されましたのでご紹介いたします。
工事のあらまし
キャンパス内に9基の仮設トイレに対応できる仮設トイレ用埋設管路と貯留弁付マンホールを設置。下水道に直結した仮設トイレ用管路のフタを開け、その上に簡易便器と覆いのテントをのせます。水を貯留できる事で汚物を水中に沈め、汚物の硬化を防ぐとともに臭気や病害虫の発生を抑えることで、有事の際にも安心で衛生的にお使いいただけるトイレシステムを実現しました。
設置された防災貯留型トイレシステム
今回は早稲田大学キャンパス企画部 企画・建設課の田中聡さんと、キャンパスの建物などの改修・修繕工事に携わられている株式会社サンコー設備 代表取締役 野田守さんにお話を伺いました。
有事の際の避難場所として、自治体と連携しハード面を管理
- 早稲田大学キャンパス企画部 企画・建設課の仕事について教えてください。
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田中さん 大学の建物の修繕・改修・新築、設備の維持管理の企画・立案を行います。具体的に言いますと、主に日々の仕事としては改修工事が多いのですが、大学のいろいろな部署から「ここをこうしたい」という要望が挙がってきます。そうした中で、「どう改修してくのか?」「給排水設備は要るのか?」など、必要条件や優先順位を決めて計画をまとめています。
新たなものとしては、早稲田大学は創立150周年を迎える2032年に向けて“Waseda Vision 150”というプロジェクトを掲げているのですが、ここでは「大学としてこうしていきたい」「キャンパスをどうつくっていくのか?」などのマスタープランを策定し、設計に入っていく段階で必要な条件をまとめたりもしています。
現在は3号館の建て替え工事をしています。また、建物の条件などで新宿区と相談して許可を得るなどの仕事も行っています。
- 震災などの有事の際に避難施設となることが想定されると思いますが、国や自治体から防災に関する要望はありますか?
- 田中さん 基本的には大学独自の判断です。3.11以降、有事の際には学生を含め学内にいる人を学内に留まることができるようにします。3日間は滞在できるようにしたいと考えていますし、そのためにも災害時の対策は順次進めています。
- 大学の災害対策として必要とされる設備は何ですか?
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田中さん 当大学は有事の際に人が集まれるスペースがありますので、新宿区とも協議の上整備を進めています。その中には防災井戸や、大学独自の備蓄倉庫と新宿区の備蓄倉庫などがあります。
今回の工事ではマンホール(下水道直結型のトイレシステム)を設置しました。受水槽には緊急遮断弁をつけるなど、ハード面の強化を我々が管理しています。
また建物の耐震基準を通常の1.5倍にしています。主要な建物の耐震改修については去年で全て終了いたしました。
機能性、コスト面の両面から下水道直結型を採用
- 今回、下水道直結型のトイレシステムを採用した経緯を教えてください。他の仮設トイレと比較などはされたのでしょうか?
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田中さん 下水道につながないタイプ(水槽タイプ)の仮設トイレはすでに持っていました。そこで、40年にわたって当大学の維持管理に携わられている野田社長(サンコー設備)とお話し、水槽タイプと下水道直結タイプで比較検討しました。
水槽タイプの一番の問題はやはり、一杯になったときにどうするか?ということです。ある程度の貯留容量を見込んだ場合スペース的にも広い場所が必要になります。そういった意味で下水道直結型であればそれらの心配がなく、さらに下水道本管は自治体で耐震化しているため、それを利用した下水道直結タイプは機能的にも安心できるという点が大きな決め手といえます。下水道本管が万が一使えなくなった場合にも、水槽タイプ同様の貯留機能を持っている点も安心です。
また、コスト面の理由もあります。今回は9基設置できるようにしたのですが、水槽タイプでボックスカルバートのマンホールを使うものは、設置数に比例して1基の費用×9基分の費用がかかります。それに対し下水道直結型の場合は、必ず貯留弁付マンホール1基を設置する必要はありますが、あとは埋設配管の布設費用だけですのでトイレの個数に比例して費用が増えるということもなくリーズナブルです。
- 整備の優先順位等はあるのですか?また、キャンパスがいくつかありますが、その管理はすべて企画・建設課でなさっているのでしょうか?
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田中さん 設備を整備する優先順位は、基本的に劣化度合いの大きいものからやっていくというシンプルなものです。空調なら20年くらい、給排水なら30年くらいといった目安になります。各建物のユーザーの考える優先順位もありますから、予算を決める段階で順位も決定していきます。ただ、最優先は当然、ユーザーの安全、そして学生が快適に過ごせるようにという点です。
管理については、大学の全キャンパスに加え同法人の2つの高校を我々で行っています。早稲田キャンパスで新しく整備したものは、その他のキャンパスへ展開していくような形になります。
- 3.11のときの大学の状況はどのようなものでしたか?
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田中さん 入学試験も終わって春休みになっていましたが、学内にはサークル活動の学生もいましたし、研究室にも学生がいましたので、大隅講堂を一時避難所として開放する対策を取りました。また災害時でも統制が取れるように各建物にある事務機能と連携が取れるよう努めています。
3.11のときは幸い大丈夫でしたが、停電の可能性もあります。そうなるとポンプ施設の停止によって断水し、建物内のトイレが流れなくなってしまう。その時の対策としてやはり災害用の仮設トイレは大切です。多くの人が避難することになりますからトイレを使用できることは当然として、病害虫対策や衛生環境を保ち安心・安全な避難環境を保つことも非常に重要なのです。
全体を知り、把握することが整備の真髄
- 他大学と災害時の対策や設備の整備などについて意見交流などはありますか?
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田中さん 当然、大学同士のお付き合いはあります。よく比較されます慶応義塾大学様とは施設部同士の意見交換もします。定期的に集まって話し合うということはありませんが、様々な大学へ見学に伺ったり、逆に当大学にお越しいただくということを通じて、意見を交換する場合が多いです。
その他プロジェクトに合わせ、様々な設計者様、施工者様と様々な意見交換をさせて頂きながら進めております。サンコー設備の野田社長ついて言えば、早稲田キャンパスを40年当見てきていますから、天井裏から土の中まで、バルブがどこにあるかもご存知です。キャンパス内には建物が多く、さらにその中に膨大な数のトイレ、空調、給排水があります。今回の工事では、図面のみでは、全てのインフラ状況の把握が特に厳しいので、野田社長とお打ち合わせを重ねさせて頂きながら、工事を進めました。野田社長 図面の一つひとつを把握できているだけではダメなんです。各建物は別々に見えても、水が流れる配管はつながっていますから、血管と同じで一部分が直っても全体的に直したとは言えません。施設全体を把握していないと最適なご提案はできないと思います。
インフラは普段目には見えませんし、開けてみなければわからないことが多い。現に設計をしている技術職の私にもわかりません。歴史が古い分、データ化できない部分が多いということもあります。やはり、こうしたことをずっと知っていていただけるということが非常に重要なんですね。
- 積水化学を含め、メーカーにご要望などございましたらお伺いしたいのですが。
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野田社長 今回、下水道直結型のトイレシステムを採用するまでにさまざまなことを調べて検討し、その中で感じたのは「トイレシステム設置というものが総合的にわかる資料がない」ということです。各メーカーの資料を見れば各々のやっていることはわかるのですが、全体が把握しやすいものが見当たらなかった、ということですね。「誰に聞けば全部わかるのか?」「このメーカーは一部分だけをやっているのか?」「我々のケースに適しているのは水槽タイプと下水道直結タイプのどちらのシステムか?」「各メーカーに部分単位でしか依頼できない場合は全体でいくらになるのか?」―さまざまな疑問がありました。
地上と地下の工事をトータルでご提案いただける資料がなかったように思いましたから、こうしたものを作っていただけたらうれしいです。
- 製品に関するご要望等はいかがでしょう?
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野田社長 工事完了後に設置方法の実演講習がありましたが、有事というのは、おそらく30年に一度くらいの頻度で起きるものでしょう。そうすると、いずれ起こるかもしれない有事の際には実演を見て学んだ人が同じ場所にいる確率は非常に低いと思います。当然、人が変われば設置方法を知らない可能性もありますし、取扱説明書の保管場所もわからなくなっているかもしれません。
こうした製品については、取り扱いの方法を資材保管場所に貼っておくなどして、誰もが自分自身で見てわかるようにする必要があると感じます。メーカーさんには、そこまでのフォローをしていただけたらいいですね。
すべては、学生の安全な学習環境のために
- 最後に仕事をする上で心がけていることは?
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野田社長 やはり大学は、1に学生、2に学生です。いかに学生が快適に学べるかということを心がけています。
学生の皆さんがより良い人間となり、社会に進み、活躍すること。それが大学の利益にもつながりますから。そのために、ハード面で満足してもらえるようにやっていけたらと考えています。ありがとうございました。私どもも、さまざまなケースに対応できる製品の開発・提案、そしてわかりやすいご提案ができるよう努力してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
今回ご紹介させていただいた製品概要
災害用マンホールトイレ(貯留型)防災貯留型トイレシステム
地震等の災害時、食事の確保だけでなく、トイレ問題が大きな問題となっています。
積水化学では、避難所等にあらかじめ設置したマンホールの蓋の上に仮設トイレを設置した”防災貯留式”をご提案します。
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