今治造船株式会社は、愛媛県今治市に本拠地を置く国内最大手の造船会社です。グループ全体の国内シェアは約34.6%、世界においても6.2%に上ります(2021年)。同社が愛媛県西条市に構える西条工場は400mを超えるドックに巨大クレーン3基がそびえる最新鋭工場です。この西条工場で積水化学の合成木材FFUが採用。用途は、盤木(ばんぎ)と呼ばれる巨大な船体ブロックを支える緩衝材です。木材を使用することが一般的な盤木にFFUが採用されるまでには、トライアンドエラーと改良が何度も重ねられたとのこと。
施設管理チーム長の大澤様にその経緯を伺いました。
インタビュー : 2022年6月1日
今治造船株式会社 生産管理グループ 施設管理チーム
チーム長 大澤 篤志様
当社は名前の通り愛媛県今治市に本社を置く造船会社です。
本社・今治工場の他、瀬戸内海沿岸にグループ全体で14の造船所および製造拠点があり、コンテナ運搬船やばら積み運搬船、タンカーやカーフェリーなど各種鋼船を建造しています。各工場により建造する船の大きさや目的は違ってくるのですが、ここ西条工場は全体で2番目に大きなドックを保有していて、主に大型船舶を建造しています。
初めての方は皆さん驚かれます。
西条工場でこれまでに建造された最大の船は、20フィートタイプの海上コンテナが2万個積載できる世界最大級のコンテナ運搬船です。全長は399.98mに及びます。ドックの長さは420mですから前後10mしか余裕がないくらいでした。
船舶は基本的に一隻ごとにお客様の要望に合わせてオーダーメイドで設計され、8か月から10か月、場合によっては1年以上かけて建造されます。完成してお客様に引き渡すときの達成感もひとしおです。
FFUが関わっているのは先にお話しした船体ブロックの運搬業務です。
まず先に、船のつくり方について説明します。鋼船を建造する場合、ブロック工法と言って船体を数十ものブロックに分けて製造してからそれらをドック内で溶接でつなぎ合わせて完成させます。船体ブロックは一つにつき数百トンもありますから普通のトラックでは運搬できません。ブロックキャリアという特殊な車両に載せてドックに運ばれるのですが、ブロックを載せる時には盤木(ばんぎ)という角材を荷台と船体の間にかませて緩衝材にしています。FFUを使用しているのは、この盤木です。
船体ブロックは鉄板と骨組みから出来ています。ブロックを直接荷台に載せてしまうと強度の低い鉄板部分に力がかかり、曲がってしまいます。それを防ぐため、骨組み同士が交差する強度の高い数箇所を点で支えなければならない。そこにFFU製盤木を置いています。サイズは20×30×40cmの直方体ですが、一つにつき30トンもの重さを支えています。
【積水化学営業担当・中澤】
はじめは飛び込みで資材課様に訪問させていただいたのですが、社内で資料を回覧していただき大澤様の目に留まったと伺いました。偶然にも新素材を検討されているタイミングであったことは幸運でした。試験中にFFU盤木が割れてしまった時はどうなることかと思いましたが…。
【大澤様】
そう。割れてしまったことがありましたね。採用は難しいかなとも思いましたが、FFUに金属のボルトを埋め込むことで、鉄筋コンクリートのように強度アップが図れるのではないかと考えたんです。金属ボルトを埋め込むという加工は初めてのことだったと伺いましたが、提案をしっかりと聞き入れてくれてできた盤木は期待どおりの強度でした。ボルトを埋め込んだ試作品を使ってブロックキャリアで運搬作業している時、接触により船体ブロックがずれてしまうことがあったんです。同時に盤木にも大きな力がかかりましたが壊れずに持ち堪えてくれました。もしボルト入りでなかったら、ブロックが倒れて大きな事故になっていたかもしれません。性能が十分確認できたことで正式に採用が決まりました。
セランガンバツ材よりも盤木が長持ちするようになりました。木製盤木の使用期間は3~4か月ですがFFUは10~12か月と、3倍以上の耐久性があります。
費用に関しては、購入費は木材よりも高いですが長持ちする分ライフサイクルコストで比較すると高くはありません。それに、更新の機会が少ないということは廃棄や調達に関わる業務負担を減らすことにも繋がります。
天然木材を使用しないことで森林保護に繋がり、環境貢献が出来るということも大きいですね。西条工場はISO14001(環境マネジメントシステム)の認証を受けていますが、その審査員にもFFU盤木の話をしたところ好評でした。
それから、現場の作業者も喜んでいますよ。セランガンバツ材の盤木は一つにつき約27kgもありますが、FFUの盤木は約18kgです。ブロックキャリアの荷台に盤木を設置するのは人の手で行っていますから、軽量化により作業性・安全性が大幅にアップしました。木製の盤木にはもう戻れないと話していましたよ。性能だけでなくコスト面、環境貢献、作業性と総合的に見てセランガンバツ材よりも良いものができたと思います。失敗しても諦めずに一緒に考えて改良を続けてくれた結果です。
――――今後もご要望にお応えできるよう、製品改良に努めてまいります。
本日はお時間をいただきありがとうございました。
<営業担当から一言>
「FFUの軽量性・強度(耐久性)が評価された用途です。コストが心配でしたがLCC(ライフサイクルコスト)の観点から採用に至ったことは大変うれしく思っております。改めて現場の要望に応じた対応が可能というFFUの利点を実感致しました。環境問題やウッドショックが叫ばれている中、社会の課題に解決できる商品開発に今後も務めて参ります。」
今回ご紹介させていただいた製品
エスロンネオランバーFFUは、硬質ウレタン樹脂発泡体をガラス長繊維で強化した合成木材です。天然木材に代わる素材としてあらゆる分野で使用可能。自然環境保護に役立つ素材として注目されています。
耐久性に優れ、水に浮く軽さを持ち、万一落下した場合も回収が容易です。長期使用品のリユースが可能でライフサイクルコスト削減にも貢献します。
耐水性・耐食性に優れ防腐処理の必要が無く、水質に影響を及ぼさないため環境に配慮した設計が可能です。
施工性に優れているため、工期短縮やコスト削減に寄与します。また、柔軟な設計対応力で、現場にマッチした製品を提案しています。
コンクリートと同等の品質安定と耐久性能をあわせ持ちながら木材のように施工でき、鉄道会社各社に採用されています。
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