雨樋(雨とい・雨どい)

1. 雨樋(雨とい、雨どい)とは

雨樋とは建物の屋根や外壁に設置される、雨水の排水設備のひとつです。雨水が原因となる建物の汚れや劣化などを防ぐことが主な役割です。

雨樋(雨とい、雨どい)とは

基本知識

一般的には「 #あまとい 」「あまどい」と読まれますが、「とゆ」「とよ」などと呼ばれることも。
主に「軒樋」「集水器」「竪樋(縦樋)」の3つの部品を通して雨水を流しており、様々な形状や素材の種類があるため、地域の気候などを考慮して建物に合った雨樋を設置します。

雨樋の歴史

雨樋が登場する最古の文献として残る、平安時代後期の歴史物語「大鏡(おおかがみ)」。その中の「花山院家造り」の一節に「あわいに“ひ”をかけて涼し」という記述があり、この“ひ”という言葉が「樋」を指しています。当時は雨水を屋根から水槽へと集め、生活用水として利用するための道具だったそうです。
時は流れ江戸時代、建物の部材を保護する目的として竹や木を材料とした雨樋が一般に普及するようになります。明治時代に入ると技術の発展によりブリキや銅、トタンなどの金属が使用されるようになり、雨樋の役割も用水から排水へと変化していきました。
そして高度経済成長期の昭和32年(1957年)、当時の積水化学大阪工場で硬質塩化ビニル管製雨樋の本格製造が始まりました。これは後の15年間で雨樋の80%が塩ビ樹脂製となる大きな変革に貢献しました。

雨樋の用途

かつては雨水を日々の生活に利用するために使われていた雨樋ですが、現在では建物に降った雨を集めて地面の排水口へ流す排水設備として使用され、雨水が原因となるトラブルから私たちの暮らしを守っています。

クエスチョンポイント

雨樋が無いとどうなるの?

近年では意匠性を重視した雨樋の無い住宅も増えています。建物の見た目がすっきりするだけでなく、メンテナンスの手間や費用がかかりません。しかし雨樋を設置していない建物はデメリットも多く、様々なトラブルを引き起こす可能性があります。
雨水が屋根から外壁へ流れたり、地面に落ちた雨水が跳ね返って建物に当たったりすると汚れや騒音の原因となる他、建物の劣化を早めてしまいます。また雨水が落ちて地面を削り建物基礎に到達すると、湿気た場所を好む「シロアリ」の温床となってしまうことも…。
よっぽどのこだわりが無い限り、雨樋は設置しておくことがおすすめです。

2. 雨樋(雨とい、雨どい)を構成する主な部品

雨樋の構成を大きく分けると「軒樋( #のきとい ・のきどい)」「集水器(じょうご)」「竪樋(たてとい・たてどい)」の3つです。軒樋で屋根から流れる雨水を受け止め、集水器で雨水を集めて、竪樋を通して排水口へ流します。 ここからは、それぞれの部品の役割を詳しく紹介していきます。

雨樋(雨とい、雨どい)を構成する主な部品

軒樋(のきとい、のきどい)

屋根に沿って設置されており、建物に降る雨水を受け止め集水器へ流す材料が「軒樋」です。様々な形状や素材があり、建物デザインや地域の気候や予算などに合わせて選んでいきます。
実際に設置するときは何本かの軒どいを建物のサイズに合わせて切り繋いでいくので、軒樋どうしを繋げる継手などが必要です。

軒樋(のきとい、のきどい)の画像

<軒樋関連の主な部品>

軒継手(軒ジョイント)

軒継手

#軒とい を建物のサイズに合わせて延長するため、軒といを両端から差し込んで繋げる継手が「軒継手」です。

曲がり

曲がり

樋を平行に繋げる軒継手に対し、屋根の角で軒どいが交わる部分に使用する継手のことを「曲がり」と言います。

止まり

止まり

軒樋の端の部分から雨水が流れないように設置する部品が「止まり」です。接着剤等でしっかり固定し、雨水が漏れないように施工します。

竪樋・縦樋(たてとい、たてどい)

建物の壁面に設置され、集水器から地面の排水口にかけて雨水を流している部品が「竪樋(縦樋)」です。
軒樋と同じように、いくつかの竪樋を繋ぎ建物のサイズに合わせて設置するため、こちらも細かな部品が多々あります。

<竪樋関連の主な部品>

エルボ

エルボ

竪といの向きを変更する時などに使用する継手が「エルボ」です。屋根から直線に竪どいを設置できない場合が多いため、エルボを使用して建物の形状に沿った配管を行います。

竪継手

竪継手

雨樋は、建物の高さに合わせて設置するため、竪といどうしを繋ぐときに必要になる部品が「竪継手」です。役割としては「軒継手」と同じで、樋を平行に繋ぐ部品です。

呼び樋

呼び樋

竪樋と同じ材料を切断し、集水器(じょうご)と竪樋の距離を調整します。

合わせ枡

合わせ枡

屋根から軒樋を経由し伸びる竪樋とバルコニーなどに設置されたドレンからの雨水を合わせ、1本の竪樋に合流させる部材を「合わせ枡」と言います。

集水器(じょうご)

軒といを通った水を集め、竪といへ流す部品が「集水器(じょうご)」です。また、塩ビ製軒樋の熱による伸縮を吸収する役割もあります。最近は、軒樋に穴をあけて設置する自在ドレンと呼ばれるタイプも増えています。屋根に降った雨がすべて集水器へと流れてくるため、屋根の総面積や地域の降水量に対応する排水能力を持った雨樋を選ぶことが重要です。

集水器(じょうご)の画像

3. 雨樋(雨とい、雨どい)の形状の種類

雨樋の主な形状となる「半円形」「角形」「特殊形」「鎖状」の4種をご紹介します。
形状によって性能や価格帯が変わるほか、建物の印象にも影響を与えます。地域の気候や予算、建物のデザインなどを基準に見ていきましょう。

半円形

塩ビ製雨樋の発売当初より最もスタンダードなタイプである半円形の雨樋。単純な構造のため他の形状と比べて安価で、柔らかい印象を与えるデザインで、多くの住宅で採用されています。
角形に比べると排水量が劣りますが、直径が大きい半円形や、片側が角形になっている「リバーシブル型」なども出てきています。

雨樋(雨とい、雨どい)の半円形

角形

同程度のサイズでも半円形より多くの排水量を確保することができる角形の雨樋。 降水量の多い地域でよく使用されていますが、近年のゲリラ豪雨の影響を受けて都市部での需要も高まりつつあります。
半円形に比べてすっきりとした印象です。

雨樋(雨とい、雨どい)の角形

意匠形

#⾬とい も排⽔機能だけでなく、デザイン性重視の化粧部材として位置付けるようになり、昭和60年代より様々な意匠性の雨樋が発売されています。
また、耐候性の向上やメタリック調の色揃えに加え、風や雪に負けない強度、厳しい環境の中でも壊れにくい耐久性を持っています。

ユニシェイプ

鎖状

管の中に雨水を通す他のタイプと違い、屋根から垂らすように設置した鎖に水を伝わせて排水口へと落とす仕組みの雨樋です。 日本発祥で、仏閣や昔ながらの和風住宅などに多く設置されてきました。雨の流れを見て楽しめる鎖状の雨樋は、単なる排水設備としてだけではなく「和」の建物のアクセントにもなります。

雨樋(雨とい、雨どい)の鎖状

クエスチョンポイント

現存する最古の雨樋は?

平安時代にはすでに存在していたという雨樋ですが、排水設備として現存する日本最古の雨樋は奈良時代(8世紀)建立の「東大寺 法華堂(三月堂)」に残されています。東大寺最古の建物でありながら、現存する数少ない奈良時代建築で、日本の国宝にも指定されている法華堂。旧暦3月に法華会が行われていたことから「三月堂」という名でも知られています。

雨樋(雨とい、雨どい)の鎖状

上図の床下の素材が変わる位置、ここより左側が奈良時代に建てられた正堂、右側が鎌倉時代の増築された礼堂です。その境目のちょうど真上、軒下に厚さ5cmほどの木の板が「コ」の字になった雨樋が設置されています。日本最古の雨樋は「角形」に近い形状で、素材は木製だったようです。

4. 雨樋(雨とい、雨どい)の素材ごとの特徴

雨樋に使用されている主な素材である「塩ビ樹脂」「ガルバリウム鋼板」「銅」の特長をご紹介します。 素材によって耐久性やコストなど違いがありますので、それぞれの特長を詳しく見ていきましょう。

塩ビ樹脂(塩化ビニール樹脂)

長所

表面が滑らかで汚れが付着しにくく、金属のように錆びることがない塩ビ樹脂は、様々な形状や色揃えがあり、建物のデザインに合わせることができます。また、軽量で施工性が高く、コストが抑えやすいこともあり、広く使用されています。

短所

塩ビ樹脂は紫外線や熱に弱く、太陽光に長時間晒されることで少しづつ劣化が進んでしまいます。近年は耐候性が向上した製品も多く販売されておりますが、外壁をリフォームする際などに塗装や交換をおすすめします。

雨樋(雨とい、雨どい)の塩ビ樹脂(塩化ビニール樹脂)

ガルバリウム鋼板

長所

金属でありながら軽量で錆びにくく、耐久性の高いガルバリウム鋼板製雨樋。金属の中ではコストも低めです。

短所

性能の高さからメンテナンスフリーと謳われることもありますが、一度傷が付いてしまうとその部分から錆びて腐食が広がる可能性があるため、やはり定期的な点検やメンテナンスは必要です。

長所

神社・仏閣などの日本建築によく使用されている銅の雨樋。酸化による経年変化で褐色から青緑へ少しずつ色が変わり、深みが増していく点は銅ならではの楽しみです。

短所

銅は他の素材と比べて非常に高価です。また酸化で青緑色になった部分が雨水で流れ出すことがあり、外壁などが汚れればメンテナンス費用もかさみます。 また近年の酸性雨の影響で穴が空いてしまうこともあります。

5. 積水化学の雨樋(雨とい)

繊密なコンピュータ解析からうまれる強度設計。褪色や変形、たわみが少ない耐久性。スピーディな施工でしっかりした納まりを実現する部品のシステム化。そして、日本の住宅スタイルにしっくりとなじむ洗練されたデザイン。これら4つの品質を高い次元で実現したエスロン雨といは、住まい全体と美しく調和しながら、永く外観美を保ちます。